夢の捨て方

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 今日の仕事も散々だった。街灯の下をとぼとぼと歩く京香の頭に浮かぶのは今日の失敗ばかりだ。お客さんの質問にうまく答えられなかったこと、レジの処理が遅く先輩から視線で――バックヤードに移動した後では直接――叱られたこと。そのほかにも細々としたミスが思い起こされては頭を占領していく。気分とともに重くなっていく身体につられて視線が足元に落ちる。はぁ、と大きなため息を吐いたときだった。 「おいしそうな匂いがする」  正面から聞こえた声にあわてて顔を上げれば、ほんの一歩先に京香と同じか年下ほどに見える女性が立っていた。丸顔にとろりと垂れた目尻はさきほどの声と合わせておっとりとした雰囲気を感じさせる。おとなしそうな女性だが、闇に紛れそうなほど黒い髪の前髪が一房だけ白く染められているのがやけに目を引いた。ぱちん、と目が合うと、なぜか女性は目を丸くした。 「ええっと……?」 「あ、すみません。お腹が空いているときにいい匂いがしたものですから、つい……。お恥ずかしいです」  困惑する京香をよそに、女性は顔を赤らめる。マイペースなその様子に、京香は「天然か不思議ちゃんかな?」と女性への認識を更新した。 「いい匂いってこれのことですか?さっきあそこのコンビニで買ったのですが」  提げていたビニール袋の口を開けるとふわ、と揚げ物の香りが漂う。先ほどコンビニで買ったコロッケだ。女性はその匂いを嗅ぐと困ったように笑った。 「たぶんそうだと思います」 「ならどうぞ。おまけで買っただけですし」  ビニール袋から取り出したコロッケの袋を女性に差し出す。途端に女性は慌てだした。 「いえ、いい匂いとは言いましたが、食べたいとは……」 「いいんです。そんなにお腹空いてませんし。どうせ残してしまいますし」 「え?」  ぴた、と女性の動きが止まる。京香はその隙を逃さずに女性の手にコロッケの袋を押し付けた。
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