夢の捨て方

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「最近お腹が空かなくて。それに揚げ物は少し食べるだけでお腹いっぱいになってしまうんです。いい匂いがしてたからつい買っちゃったけど、ちゃんと食べてもらえるならその方がいいと思うんで」  おそらく空腹にはなっているのだと思う。なにかを食べればお腹になにかが溜まった感じはするし、少しだけ元気になる。ただ『お腹が空いた』という感覚が感じ取れなくなっているだけだ。  京香の言葉を聞いた女性の眉間にしわが寄る。急に険しい顔になった女性に今度は京香の方が困惑した。 「それはだめです」  ぐいっと引っ張られた手に押し付けたコロッケの袋が戻ってきた。女性の黒い瞳がじっと京香を見つめる。魅入られたように目が離せない。 「人はよく動いてよく食べてよく眠るものです。そのうちのどれか一つができなくなれば、そのうちに他のことにも支障が出ます。下手をすれば死んでしまいますよ」  ぬらりと街灯の明かりを反射する女性の瞳に京香はある鉱物を連想した。  黒曜石。どこまでも黒く、割ることでできる欠片は刃物として利用できるほど鋭い切れ味を持つ。黒く鋭い瞳がふいに優しく細められた。 「いいおまじないを教えてあげます。騙されたと思って試してください」
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