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翌日、凪は精神統一のために朝から弓道場にいた。彼女は一人、的を狙ってただひたすらに矢を放っていた。もう的には矢が刺さる箇所はなく、すでに地面に矢が散らばっているような感じになっていても、凪は矢を放っていたのだ。
そこへ、「随分と熱心だな」と声をかけてきたのは幕井平太であった。
「大会近かったっけ?近いのはテストの方だろ?」
「そっちは今日は朝練なかったの?」
「うちはもう部活ないんだ。みんな成績悪いから、今日からテスト終わるまで勉強期間」
「そうなんだ」と言って、凪は用意してあった最後の矢を撃ち放つ。その矢は低い放物線を描き、的に当たる。
「ほえー。相変わらずすげぇな」
平太は感心して言った。だが、彼女の中ではイマイチだったらしく、「今のは30点」と言って、片付けを始める。
「的のど真ん中に当たってんのにか?」
「弓道って的の真ん中に当てればいいって競技じゃないの。どんなに真ん中に当たったって、的に当たったら得点は1点しかもらえないんだから」
「へぇ。団体競技なんだっけ?」
「まぁそうだね」
これまで個人競技しかやってこなかった平太は、この“団体競技”というのがどうも面倒なものに思えていた。「俺、団体競技って嫌いなんだよな」と彼が言うと、凪は「なんで?」と聞いた。
「みんなで目標に向かってがんばるみたいなのって青春の王道って感じじゃない?」
「まぁそうかもしんないけど、めんどいじゃん。誰が足引っ張ったとか、真面目にやってるやってないとか。それに比べて一人でやってたらそういうこともないだろ?自分一人がきちんとやってりゃ、自ずと結果は付いてくるんだから」
「平太は相変わらず人嫌いね」
「相変わらずで悪かったな。これでも変わろうと努力した結果なんだよ」
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