13の刺し傷

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「最近の俺はそのせいで後輩連中と満足なコミュニケーションができてないのが悩みだよ」 「各種ハラスメントの要素を含む会話じゃないと後輩たちとコミュニケーションが図れない方が異常なんです」 薫がそう言うと、梓は微笑んでいた。 「さてと、そろそろ事件の話をしましょうか警部さん」 「あーすみません。えっと、何かわかったことはありましたか?」 気を取り直して菊村が聞いた。すると、梓は一枚の紙片を取ってそれを読むかのように説明を始めた。 「この被害者の方、随分と刺されてますね。合計で13ヶ所も。いったいどんなことがあったら人のことをこんなにまで刺し続けることができるんですかねー。それで、胃や腸内に残っていた食べ物の消化の具合から、死後3時間ほど経過していたと思われます。首筋にあった火傷は、その形から見て十中八九スタンガンによるものでしょう」 これらの情報から、被害者の山上賢介は、何者かにスタンガンで気絶させられ、あの森林まで連れてこられてから殺害されたのだとわかる。その情報に加え、梓は「それと、不審な点がひとつ______」と言った。それを聞き、薫はメモをしている手を止めて、「それは何ですか?」と尋ねた。 「13ヶ所の刺し傷が変なんですよ」 「刺し傷が?」菊村も首をかしげた。 「刺し傷が全部一定のものじゃないんですよ。傷の形も、刺した時の角度も、傷の浅さも______」 「それはどういうことですか?」 薫が聞くと、梓はその謎について説明を再開する。 「例えばですけど、この傷______。心臓にまでまっすぐ突き刺された傷です。これは、刃物に全体重を掛けて勢いをつけて刺したものでしょう。でも、この右胸のところの傷は、まるで怯えながら刺したみたいな極めて浅い傷なんです。あと、その上にある右胸の傷______。これは、左利きの人間が刃物を逆手に持ち、上から振り下ろす感じで突き刺したんだと思います。でも他にその左手で刺した傷というのはないんです」
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