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そこまでの説明を聞き、菊村は、おかしいな。とひとつ呟いた。それに続き、薫も「えぇ、たしかにおかしいですね」と言う。
「犯人は被害者を嬲り殺しにするためにわざわざ浅く刺したり、利き手じゃない左手で刺したりしたってことか?」
最初におかしいな。と言ったのは彼なのに、まったくもって的外れな推理を炸裂させる菊村に、薫は「……警部は馬鹿なんですか?」と、冷たい目を向けて聞く。
「え、なんで?え、ってか、今馬鹿って言った?」
戸惑う菊村を無視して、薫は梓に「先生は、どう考えますか?」と聞いた。すると彼女は、持っていた紙片をポイとデスクに投げるようにして置き、「私は警察官じゃないし、小説かなんかで出てくる探偵でもありませんから、自分の推理を話すのはちょっと気が引けますけど______」と、長々と前置きをして、それを話した。
「もしかしたら犯人は一人じゃなくて、複数人なんじゃないでしょうか?」
犯人が複数人______。菊村はその推理に唸った。「なるほど。たしかにその可能性もあるね」と彼は言った。
梓はあくびをかきながら、「ですから、被害者に対して恨みを持っている人を複数、目星を付けておいた方がいいんじゃないんですかね」と、自分のデスクに腰掛けて言った。
「警部さんが言ってたみたいに、誰か一人が被害者を嬲り殺しにしたっていう線も捜査してもいいと思いますけど、まぁ可能性は薄いかなって思いますよ」
梓は腕組みしながら言った。その頃には、もう深夜0時を回ろうとしていた。菊村は、この事件は難解を極めるだろうと踏み、早速彼は“中央署の切り札”に連絡する。その姿を見た薫は、「またあの人に連絡ですか?」と聞いた。
「“あの先生”ならすぐに来てくれるはずだ。難解な事件こそ、“あの先生”の主食みたいなもんだからな」
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