13の刺し傷

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薫は嫌悪の表情を浮かべていた。そんな彼女を見て、梓は「そんな怖い顔しない方がいいですよ?美人が台無しですから」と言った。 「別に私は美人じゃありません」 先ほどまでとは打って代わって、彼女の顔から笑顔はすっかり消えていたし、口調も冷たかった。連絡を終えた菊村に、梓は耳打ちする。 「あのー、なんで彼女はあんなに怒ってるんですか?」 「あー、あれ?あれはね、“人嫌い”ってやつだよ。俺が今連絡したのは、我々警察の犯罪捜査における切り札みたいな人なんだけど、その人のことがどうやら彼女は嫌いらしい」 「なるほど。そういうことですね」と、梓は言った。 こうして、左門寺と幸守は指定されたこの法医学教室にやって来たのである。そこで、二人は驚きの一方的な再会を果たすのであった。 「お待ちしてましたよ、先生方」 そう言いながら、菊村が二人を出迎える。こんな深夜の大学病院に出入りすることなんてないものだから、妙に気分が上がっていた幸守は「いやー久しぶりにテンション上がってますよ、警部」と言った。 「そりゃあよかったな。でも、今はそんな悠長なこと言ってられんよ。とんでもない事件が起きたんだからね」 菊村のその発言に左門寺が反応する。 「とんでもない事件ですか?」 「えぇ。被害者の名前は“山上賢介”さん、38歳。死因は刺殺。その人の体には、13ヶ所もの刺し傷がありました。それで、被害者の検死をこの飛鳥井先生にやってもらったんですが______」 そこで菊村は自分のデスクに座る飛鳥井梓を簡単に紹介した。その時である。左門寺と幸守が驚いたのは______。なぜ彼らが驚いたのか。その理由に関しては簡単であった。昨日の夜、小さなフランス料理店で一人で食べていたその女性こそ、飛鳥井梓だったのである。彼女を見て、左門寺は顔色を変えずに平然としていたが、幸守は明らかに動揺していた。
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