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デスクから立ち、どうも。と言って、会釈した梓はなぜか動揺している幸守を見て首をかしげていた。
「どうかしましたか?」
梓はそんな彼に聞いた。「いえ、なんでもないです」と、慌てて弁明する幸守は、「それで、どこがとんでもない事件なんですか?」と、菊村の方に視線を向けて聞いた。
「それがね、飛鳥井先生が言うには、この事件の犯人が複数人なんじゃないかって話なんだよ」
「複数犯ってことですか?」幸守が聞いた。続けて左門寺が「なるほど。法医学の先生、検死結果の報告書はありますか?」と聞いた。梓はそれを彼に手渡すと、左門寺と幸守は二人でその報告書を読んで、左門寺はある仮説を立てた。
「たしかに、犯人は複数いそうですね。あなたが嘘の報告書を書いていなければ」
突然初対面の女性を挑発するかのようなその発言は、その場の空気を凍らせた。菊村も幸守も戸惑いを隠せない様子で、フォローが少し遅れる。薫はまた始まった。と言わんばかりに頭をポリポリと掻いていた。こういった場面では決まって、医者というのはプライドが高い人種であるから激怒してくる。しかし、梓は違った。彼女はニヤリと笑って、「どうしてそう思うのかしら?」と左門寺に尋ねたのである。
「簡単なことですよ。あなたならこの報告書を幾らでも偽装できるからです。そうすれば、自分が犯人だという線を消せますし」
「たしかに、そういう推理もありますね。私も容疑者の一人ということですか。でも、私には被害者を殺害する動機がありませんよ」
「えぇ。これが快楽的殺人じゃなければね」
ここまでの二人の舌戦を見ていた幸守は、一度左門寺を止める。
「おい左門寺、ちょっと言い過ぎだぞ」
「君だってその可能性を否定できないだろ?それとも、彼女が君の理想の女性だから、庇ってるんじゃないだろうね?」
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