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左門寺にとんでもないカミングアウトをされ、再び動揺する幸守。しかし、当人である梓はその“理想の女性”というワードに気にすることなく、「いいですよ。たしかに、その可能性は否定できませんから」と言った。そして彼女は、左門寺のことを見つめて、「あなたのことは知ってますよ、左門寺究吾先生」と続けて言った。
「ほう。僕のことをご存知で?」
「もちろん。あなたのことは警察の方々から聞いてました。まさか、あなたが“切り札”と呼ばれているとは知りませんでしたけど。幾つもの猟奇的な難事件を解決してきたみたいじゃないですか」
「そうですか。僕が警察の“切り札”ですか」
そう言われていると知って、悪い気がしない左門寺は、ニヤリと笑う。そんな彼に梓は「でも、私の推理も気にしてみてもらえます?複数犯だって可能性も否定できないですよね?」と聞いた。
ふむ、たしかに______。と、左門寺は言って、再度彼女が作った報告書に目を通す。
「あなたの言う通り、複数犯という可能性は高いですね。複数犯なら、刺し傷の特徴から考えて3人以上ってところですか」
「えぇ、その通りです。被害者の体に刻まれたその刺し傷は、今回の事件を解決する上で一番の手掛かりになると思いますよ」
梓は語尾を強めて言った。彼女もこれまで事件解決に協力してきた“名探偵”であることに変わりはない。法医学の知識や見解から導き出されるその推理は、左門寺と同じくらい高い的中率を誇っていた。
「お二人さん、お互いに推理合戦するのはいいんだが、そろそろ我々の方にも目を向けてほしいところだね」
それまで二人の話を動揺しながらも黙って聞いていた菊村が言った。捜査の中心になければならない警察官が置いてけぼりを食らうわけにはいかない。
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