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「じゃあ、私は帰っていいですか?明日も普通に仕事ですし」
あくびをかきながら梓は聞いた。「えぇ、どうぞどうぞ。すみませんでしたね、こんな夜分遅くに」と菊村は礼を言った。すると、梓はすぐに帰る支度を始める。菊村は左門寺と幸守にも捜査会議に参加してほしいと頼み、一緒に中央署に向かおうとしていた時、左門寺が幸守に耳打ちする。
「いいのか?彼女に連絡先聞かなくて」
「はぁ?こんな時に何言ってんだよ」
「強がる必要があるのか?惚れた女には積極的に行った方がいいぞ?」
「大きなお世話だ」幸守はそう言って、捜査会議が開かれる中央署に急いだのであった。
捜査会議に参加する時は、左門寺と幸守は会議室の一番後ろの席に並んで座ることが多い。一応二人は捜査に協力しているとはいえ、一般人であることに変わりはない。そのため、積極的に一番前の席になんて座れない。それに、ああいうのは座る席順もある程度決まっていて、勝手に座ったりすれば捜査会議どころではなくなってしまう。特に左門寺は他の刑事たちからは“曲者”として睨まれていて、これまでも何度か問題になっているから尚更である。
いつものように左門寺と共に一番後ろの席に座った幸守は、「ちょっと聞きたいことあるんだけど」と、横にいる彼に聞いた。
「お前、なんであの人のこと疑ってたんだ?」
「あぁ、君の理想の女性のことかい?」
「それはもういいって。んで、なんで?」
「こんなことを言ってしまったら、君に怒られるかもしれないけど、言ってしまうと勘だよ」
「ただの勘であの人のこと疑ってたのか?」
呆れてしまう幸守。この左門寺という男、たしかに名探偵なのだが、時折、“勘”だけで物事を判断してしまうことがある。
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