13の刺し傷

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もちろん、それを拒否するわけがない。左門寺は「もちろん行きますよ」と言ったわけだが、その後に彼はさらに続けた。 「ですが、幸守くんはどうやら別にやることがあるらしいから、僕だけが行くよ」 「はぁッ!?」勝手にそう決められた幸守はそう声を上げる。彼だって事件の捜査は気になっているし、次回作のネタを発想する良いきっかけになるかもしれないのに、左門寺に勝手にそんな風に言われてしまっては黙っていられない。しかし、菊村は度を超えて素直であるから、「そうなんですか。じゃあ学校には左門寺先生だけで向かうということで」とそれを了承してしまう。それまでに幸守が否定する暇はなかった。できたことといえば、左門寺にひっそりと耳打ちし、その理由を問うことくらいであった。その際、彼からはこう言われたのである。 「君はあの理想の女性を追いかけてほしいね。あんな美人なんだから相手がいるかもしれないが、いないならいつ相手ができるかわからないじゃないか」 「こんな事件が起きてるってのに、俺は捜査しないで女のケツ追いかけろってのか?」 「言い方悪くするとそういうことになるね。それに、気になるんだろ?だったら行けばいいじゃないか」 「理由がなかったら会えないだろ。それに、俺はそんなに気になってない」 「頑固だな。頑固な奴はモテないぞ」 「お前に言われたくないっての」 こうして、半強制的に幸守は翌日の捜査には参加できなくなったわけだが、彼が飛鳥井梓のところを訪れることはなかった。用事もないのに彼女のところへ行く度胸は、彼には持ち合わせていなかったのである。そのため、彼は一人、ハイツベイカーの自室に篭って、次回作のプロット作成に励むことになったのであった。
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