12人の容疑者

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「二人とも暇なの?どうなの?走りの方は」 凪は話題を変えるために二人に部活の話を振る。 「俺たちはいつも通りだよ。こいつは俺より遅いってことも」と、平太がニヤニヤしながら言うと、「おいおいそりゃないだろ?俺だって一応、タイムは良くなってるんだぜ?」と張り合うように言った。 「でも俺に勝ててねーだろ?」 「今に勝つさ」 この二人のライバル関係は、この陸上競技だけではない。例えば、子どもの頃のゲームの対決、テストの点数、あとはバレンタインのチョコレートの数など多岐に渡るが、その結果はいつも引き分けのような形で終わっていた。しかし、陸上競技だけは正確に結果が残る。平太は昔から走るのが得意だったこともあり、短距離走ではまだ平太が負けなしの状況であった。それを鼻にかけて、平太は修二に「お前が俺に勝つって?絶対そんなことないねッ」とヘラヘラと笑っていた。 「さすが、勝者は奢るねぇ。その奢りのせいで足を掬われないようにしとけよ?」 修二も冗談混じりに言った。その時の彼の発言が妙に凪には引っ掛かっていた。 同じくらいの実力の持ち主同士が戦う場合、“奢ってしまった方”が負ける______。凪はそこでハッとしたのである。負けられない。負けちゃいけない______。再び気を引き締めると、凪の顔には少し笑顔が戻った。それを見た平太は、「お、やっと笑ったな」と言った。 「え?」 「朝から怖い顔してたぞ?今日。凪は昔から笑ってる顔が良かったんだから、笑っとけ」 平太はそう言うと、少し照れ臭くなり、修二と一緒に屋上を後にした。後で修二にそのことについて茶化されたのは、言うまでもない。しかし、それでも凪はその言葉が嬉しかったのであった。
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