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この学園の弓道場は、校舎から渡り廊下で繋がっている。凪はその弓道場で周りを魅了している。
凪は、高校生には似合わないくらい美人であった。少し茶色味がかった背中まで伸びた髪は後ろで一本に束ねており、白い袴姿が美人な彼女をさらに美しくしている。女子も男子ももはやそんな彼女を目当てに入部してくる生徒が多かった。
凪は的を狙い、キリキリと音を立てて弦を引く。緊張がその場に走る。その静寂は、弦を引くその音を際立たせた。そして、凪はその的を狙って矢を放つ。その矢は鋭く風を切り、スパンッと音を立てて的を射抜いた。
「的中ッ!」
周りの生徒たちが叫ぶ。凪は大きく息を吐く。するとそこへ、「すみませーん」という声が聞こえた。凪はその声の方を向く。そこにいたのは、例のあの男である。
「刑事さん」
わざとらしく凪は間違える。もちろん、彼女はその男が刑事ではないことはわかっていた。
その男は申し訳なさそうな雰囲気を周りに振り撒きながら、凪のところへ歩み寄り、「いやーすみません。部活動中なのに」と言った。
「何か用ですか?刑事さん」
そう聞きながら凪は再び的を狙って弓を引く。そんな彼女にその男は訂正を入れた。
「僕は刑事じゃないんですよ。犯罪心理学者なんです」
「あー、そうでしたね」
そう言いながら凪はまた矢を放つ。その矢も見事に的を射抜いた。
「的中ッ!」
後輩たちが叫ぶ。その声に反応し、その男は「すごいですねー、あんなに遠い的に当てられるなんて」と感心して的の方を見ていた。
「こんなの誰でもできますよ。私ができるんですから。それで、何かありましたか?えっとー……」
「左門寺です。僕の名前は左門寺究吾といいます」
唐突な自己紹介を受け、「じゃあ、左門寺先生って呼べばいいですか?」と凪は聞いた。
「先生ですか。いいですね、その響き」
「呼ばれてないんですか?」
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