12人の容疑者

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「僕はあまり学生とは会話しないんですよ。どっちかといえば、“変人”の方が多い気がします」 「“変人”ですか______。なんとなく合ってる気がしますね」 そう言いながら、凪は弓道場の壁のところに並べて置かれた自分の部活用バッグのところへ行き、タオルを取って顔周りに付いた汗を拭き取る。そして、一人の後輩が冷えた水筒を「先輩、これどうぞ」と言って凪に手渡した。「ありがとう」と言って微笑む彼女は、その水筒の中のスポーツドリンクを少し飲む。その様子の一部始終を見ていた左門寺は「後輩の方々に愛されてるんですね」と言った。 「そうなんですかね。まぁうちの一年はよくやってくれてます。感謝してますよ。うちは三年がいないから」 「三年生がいないんですか」 「えぇ。うちは私たち二年が創った部活なんです。まぁ正確に言えば、廃部寸前になってた部活を復活させたんですけど。ちょっと前までは結構良い成績残してた部活だったらしいんですけど、部員数がどんどん減ってって、最終的にはいなくなってしまってからは活動してなかったみたいなんですけど、私たちが復活させたんです」 「ほう、それで今ではあなたがこの部のエースなんですか?」 すでにその情報を知っていることに少し驚いた凪は、思わず彼の方を向く。すると、そこで左門寺と目が合った。 「他の生徒から聞きました。君はこの弓道部にはいなくてはならない人物だと。他にもこんなことも聞きました。君は学業も優秀で、すごく頭も良いって」 他人からの評価というのは極めて気恥ずかしい。凪は照れながら「そんなことないですよ」と言って左門寺から目を逸らし、タオルをバッグに仕舞って水筒のスポーツドリンクを飲む。 「いやぁみんな君のことをすごく評価していましたよ。文武両道とは君のことだとね」
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