12人の容疑者

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壁にもたれて弓道場の風景を見守る凪は「それは言い過ぎですよ」と言った。 「そんなことよりいいんですか?こんなとこで油売ってて。事件の捜査、警察に協力してるんじゃなかったでしたっけ?」 「おや?先ほど僕のことを刑事と間違っていたのに僕が警察の捜査に協力していることは覚えていたんですね」 「左門寺先生が訂正してくれたから思い出したんですよ」 曖昧な笑顔を作って凪は言った。左門寺は痛いところを突いたつもりだが、そうはいかない。そんなことで動揺するほど、生半端な気持ちで警察を敵に回していない。凪は内心敵対心剥き出しであった。その敵対心に気付いたのか、左門寺は「そんな笑顔を作らなくても大丈夫ですよ」と言った。 「別にそんなことないですよ」 凪は表情をなくして言った。水筒を側にいた後輩に手渡して、弓を構える後輩たちに指導を始める。そんな彼女を追い続けて左門寺は話を続ける。 「いやぁ実はですね、僕がここに来た理由は事件の捜査のためなんですよ」 「へぇ。それでなんで私のところに?私、アリバイあったでしょ」 凪は後輩たちに指導しながら聞く。 「えぇ、そうなんです。あの後に、僕たちは他のクラスにも事情聴取したんですよ」 「へぇ、そうなんですか。それで、どうだったんですか?」 「いやぁそれでね、面白いことがわかったんですよ」 「面白いこと?」 「えぇ。それがね、その“アリバイ”についてなんですよ______」 知恵を絞って考え抜いたその“アリバイ”について、面白いことがわかったと聞き、凪は少し後輩に教えるその手を止めてしまう。その刹那、気を取り直して彼女は指導を再開し、「へぇ。アリバイについて何かわかったってことですか?」と凪は聞いた。
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