12人の容疑者

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しかし、彼は様子をまったく変えずに「そうですか」と言った。彼自身、聞きたいことはもうないのか、「それでは、部活中なのに申し訳ありませんでした」と凪に言って、左門寺は弓道場を出ていった。その後ろ姿を睨み付けるように見届けると、凪の周りに後輩たちがやって来て、あの人は誰なのか、どんな話をしていたのかなど、聞いてきたのだが、凪は「なんでもないよ」と笑顔で言って誤魔化したのであった。 その日の夜、女子寮の食堂に、凪たちは集まっていた。それはアリスが集めたものである。一番最後に凪がやって来て、それを待っていたと言わんばかりに、一斉に彼女に話しかける。 「ちょっと、私、聖徳太子じゃないからそんないっぺんに話しかけられてもわかんないってば」 凪がクラスメイトたちを見ると、アリスを含めた全員が不安そうな顔をしていた。その時、彼女はすぐに何が起きたのか理解した。 「あの男、みんなのとこにも来たの?」 あの男とは、左門寺究吾のことである。どうやら、彼だけは自分たちを疑っているらしい。そのため、みんなは不安になっていたのである。 「アリバイがあったら大丈夫なんじゃないの?」「私はそのアリバイ自体が不自然だって言われたんだけど」と、口々に不安を吐露するクラスメイトたちに凪は言う。 「大丈夫。私たちの最大の武器はその“アリバイ”なんだから。たしかに、不自然に見えるところもあるかもしれないけど、だとしても、崩されなかったら問題ないの。山上が担任しているクラスの女子生徒の私たち全員が犯人だなんて、きっと誰も思わない。それに、そうだったとしてもその証拠がない。だからこの計画は完璧なの。だから私のこと信じて、あの男の追及に屈しないで」
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