12人の容疑者

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草野修二は、いわゆる、『努力の人』であった。 彼は幼い頃に両親を亡くし、保護施設に入ることになって、物心ついた頃には自分が天涯孤独の身なのだと自覚していた。そんな時、彼は幕井平太という生涯のライバルであり、親友と出会うことになる。この話を聞くと、大概の人は出来過ぎだとか、漫画やドラマなどのフィクションのように聞こえるかもしれないが、実際にこういう出会いをして、人生の見方が変わった人もいることを自覚してもらいたい。 草野修二は、別にこれといって得意なこともなかったし、趣味もなかった。だが、幕井平太と出会って、そんな彼の人生はすべてが一変する。陸上を始めたのも平太の影響だし、好きなテレビゲームだって全部平太がやっていたからである。ただひとつ、山室凪に恋をしたということ以外は______。しかし、彼女の隣にはいつも平太がいた。修二にとって平太は親友で、陸上においては先輩であり師匠、そしてライバル。ゲームにおいてもそうであった。だから、その手のことに関して、修二は平太に一度も勝てたことがない。それなのに、そんな相手が、初恋の人の隣に立っている。その時、修二は諦めようと考えた。きっと、この競争も勝てないと______。しかし、彼の心はそれでは収まらなかった。ふと、彼は考えてしまったのである。自分が凪を好きでいることをなぜ諦めなければならないのかと______。恋愛心理学的なこととか、難しいことはわからないし、知りたいとも思わない。だが、平太に遠慮してこの気持ちに嘘をつくことは絶対に違うと思ったのだ。それから彼は、『努力の人』となったのである。別にこれまでがそうじゃなかったわけではない。これまでも平太に勝つために様々な努力をしてきた。特に陸上においては、専門とする競技が短距離走で同じだったこともあり、一秒でも平太の記録に近付けるように練習を重ねた。
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