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何かを知るということは楽しいことだと思っている修二は、時折部活仲間や平太に勉強を教えることがあったが、そんな彼も平太は『天才』であると認めていた。彼は要領さえわかってしまえばなんでもすぐにできるし、問題を解くスピードも早い。それがいつも発揮できればきっと赤点なんて取らないのだろう。そんな彼が修二にテストの成績について心配するなんて、場違いにも程がある。
「また勉強教えてやろうか?どうせまた全然勉強してないんだろ?」
「残念でしたー。今回はちゃんと勉強してますー」
「ほう。やっと改心したのか?」
「俺たちオリンピック選手に選ばれるかもしれねんだぜ?改心するだろ、そんな偉大な現実突きつけられたら」
努力が実り、オリンピックなんていう世界的な大会の日本代表に選ばれるかもしれないという偉大な事実は、たしかに人の心を変える。これまでの自分を改めて、新しい自分を作るのだ。そうなればこの学校の看板だけではなく、この国の名前も背負って戦うことになるのだから______。「でも、なんで俺たちなんだろうな?大学生の中でも良い選手いただろうに」と修二は呟くように言った。
「選手って言っても、最初は育成選手らしいよ。それでもすごいことだろ?」
「まぁそうだけどさ。だって、俺たちだぜ?」
偉大なこと過ぎてあまり実感が湧いていない修二。平太はそんな彼に「そろそろ認めてやれよ、自分が今までやってきたことをさ」と言った。
「お前、すげぇことしてんだぜ?中学から陸上始めて、今やオリンピック選手になれるかもしれないとこまで来てるなんてさ」
「まぁ、よくよく考えてみたらそうだよな……」
修二はぼーっと何も見えない暗闇の先を眺めていた。「でも、実感湧かないよ」と、笑って言った。
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