13の刺し傷

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それからは少しその女性のことが気になって、目の前の料理に集中できなくなった幸守であったが、次第にそんなこともなくなり、気付けばその女性は先に店を出ていたらしく、左門寺と幸守が店を出る時には、彼女の姿は見当たらなかった。彼がキョロキョロとしていたことにもちろん気付いていた左門寺は、店を出て夜道を歩いている時に、「後悔してるのか?あの女性に話しかけなかったことを」と聞いたのである。 「馬鹿野郎。んなわけねーだろ」 「それならいいが。ただ、あの女性、妙だったな」 「どこが?」 理想的な女性が妙だったと言われ、少し語尾が強くなってしまう幸守。 「だってそうじゃないか。あの店は、僕たちの他にも多くの客がいたけど、そのほとんどが男女のカップルだった。僕たちと同じように男同士で来ている人もいたが、ごく少数。一人で来ていた客に関してはそれよりも少ない。もしかしたら、彼女だけだったかもしれない。あの店は一見して、女性が一人で入れるほど敷居の低い店ではないし、料理の値段も結構する。わざわざ女性が一人で入る店ではないと、僕は思うんだけどね」 「そうか?別に一人で入ったっていいじゃないの。あの店の料理が好きなのかもしれないし」 「たしかに、その可能性もあるね。だが、そうなると、彼女は今まで何度もあの店に出入りしていることになる。正直、彼女は僕たちよりも年齢は下に見えた。そんな女性が、あの店に何度も入れるほど収入があるとは思えない」 「それ偏見なんじゃないの?もしかしたら大財閥のお嬢様って可能性もあるだろ」 「だとしたら、あんな小さな店のフランス料理なんて食べないよ。結構高い店だけど、大財閥のお嬢様ともなれば、もっと高いところでもよかったはずだ」
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