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辺りをグルっと見渡した先に、一人、男の子の姿が目に入った。その子は棚と棚の間からスッと現れて移動し、カウンター内の席につくと、手にしていた本を開いた。
(あの子…、たしか同じ5年生の子だ。カウンターの中にいるってことは、図書委員なのかな…?)
一瞬迷ったけれど、思いきって近づいて声をかけることにした。
「あの…」
男の子が顔を上げた。黒く、でも同時に透明感のある瞳。キリっと鋭い眼差し。
私は思わずたじろいだ。
「あの…司書の先生は?」
「さっき、具合悪くなった子に付き添って保健室行った。それで今は俺が代理してる」
愛想のない素っ気ない言い方だ。
「図書委員…?」
「違う。代理だから貸し出しのバーコード読み取りはするけど」
(そっか…どうしよう。この子に本のこと聞いたって分かんないだろうし…)
先生がいない上に男の子が図書委員ですらないと知り、私は99%諦めの気持ちになった。
でもまぁ一応、本当に一応、聞くだけ聞いてみるか、とプリントを広げて男の子に見せ、課題図書の一覧を指さした。
「ココに書かれてる本のどれか、どこにあるとか…分かんないよね?」
「……コレ、提出今日じゃん。今からやんの?」
男の子はプリントにサッと目を通すと、ちょっと呆れた様子でこちらを見た。
「うん、やっぱ無理だよね…」
完全に諦めかけた瞬間だった。
「こん中だったら、『蜘蛛の糸』だな。短いから」
「えっ…?」
「あっち」
男の子はそう言うやいなや立ち上がると、奥から2番目の本棚にまっすぐ向かい、全く迷わず1冊の本を取り出して中央のテーブルに置いた。
表紙には『蜘蛛の糸』と書かれてある。
私はその鮮やかさにびっくりして目を見張った。
「今からあらすじ言うから写して。そんで感想はテキトーに書けばいい」
「えっと…」
「はやく、鉛筆」
「う…うん!」
そのわずか5分後、私は彼の口から放たれる言葉をそのまま丸ごと写してあらすじを書き終えた。さらに7、8分後には感想文も完成した。(こっちもかなり手伝ってもらった)
休み時間は残り約5分だ。
「ホントありがと!助かったよー」
まさか間に合うとは!私は心の底からホッとしてお礼を言った。
「……」
男の子は無言で軽くうつむいている。
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