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6年生になった時、上杉くんの様子が急に変化したのは、そうした事情があったせいなのか―――
「その、お父さんが戻ってくることは…」
「戻ってくるって期待できるなら名字変えないでしょ。こんなこと言うのアレだけど…、生きてるかどうかも分かんないよね」
「うん…」
「とにかく複雑っぽいけど、もう完全に世界違うし、今の岩本は絶対関わっちゃダメなヤツだよ」
「………」
「あ、でも岩本、2学期から転校する。隣の市に引っ越しだって」
「…そうなんだ」
「正直、伊達川のイメージ下げられて迷惑だから良かったよ。もうこの辺では見ないから安心してね」
……5年生の時はそんなじゃなかったんだよ。上杉くんは無愛想だったけど、優しかったよ。すごい読書家で、本のこと何でも教えてくれて………。
いろいろ言いたかったけれど、上手く友加里に説明する自信が持てず、私は結局黙ったままでいた。
―――その後も数日の間、上杉(岩本)くんとの再会の余韻は、身体の中でこだまするように尾を引いて残った。
とは言っても、とっくの昔に私たちの関係は切れているし、現在となっては確かに全く世界が違う。友加里の言う通りだ。
上杉くんはあんなに変わってしまった。名前も変わってしまった。きっと過去のことなんて何もかも忘れているだろう。金髪に絡まれたのを助けてくれたけど、別にこちらを覚えていた訳ではないんだろう……。
だからもちろん、私は何もせず、ただそのまま余韻が消えていくのに身を任せた。
毎日の部活も忙しいし、9月になると、また目まぐるしい学校生活がスタートした。
そんな現実の波の中にあの夏の出来事も吸収され、やがて忘却の彼方へ押しやられていった。
あのコンビニのある通りへはほとんど行かないし、もともと私は何事も忘れるのが早いタイプだ。
それでも―――
部活仲間と別れ、一人になった帰り道やテスト勉強の合間。そんな日常のふとした狭間に、思いがけずフラッシュバックがやってきた。
あの真っ赤な、炎のような髪
強烈に輝いていた瞳
そんな上杉くんの姿が、閃光みたいにパッと脳内を駆ける。
そしてそのたびに、なぜか胸の奥がキュッと痛んだ。
一体どうしてそんなことになるんだろう?
もう友達ですらない人のことが、何でこんな風に蘇るんだろう―――?
中学2年生の私は、自分自身の心でさえ、把握しきれていなかった。
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