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それは「話しかけても大丈夫」というサインのように感じられて、私は勇気がわいて上杉くんの方へと足を踏み出した。 ねえ、一緒に写真撮ろうよ。宿題手伝ってくれてありがとう。教えてくれた本、面白かった。もし良かったら、またお薦めの本、教えてほしいなぁ―――― だけど、一歩遅かった。 上杉くんのお母さんらしき女性(ひと)が、先に彼の元に駆け寄った。 目の覚めるような派手なパープルのワンピース(かなりタイトでボディラインがくっきり見える)に、紅い口紅。ギラギラしたシルバーのピンヒールパンプス。ゆるくウェーブした長い髪は金色に染められている。目鼻立ちは上杉くんとよく似た綺麗な人だ。 お母さんはせかすように荒っぽく上杉くんの背中を押し、二人は瞬く間に門の外に出ていってしまった。 背を押され速足で歩きながら、ほんの一瞬、彼がこちらを振り向いた。 待って―――――! 心の中で叫んだけれど、それは現実の声にはならず、上杉くんの姿はあっという間に遠ざかり、街並みにまぎれて消え去った。 その瞬間(とき)、強めの風が吹いて桜の花びらがはらはらと舞い散った。 世界は淡く柔らかいピンク色に染められて、周囲からワッと歓声が上がったけれど、私の内部には何となくひんやりした穴があいた。
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