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そんな卒業式から、1年と4ヶ月が過ぎた。
蝉の声がやたらうるさかった、中学2年の夏―――
その頃の私は、上杉くんのことも図書室のことも忘れ――というより、どんな過去も振り返ることなく――ただひたすら目の前の生活に追われる日々を過ごしていた。
だって中学生ってかなり忙しい。中間期末テストにいろんな行事に友達づきあい。何より、所属していたバスケ部の練習が厳しくて、毎日ついていくのに必死だったのだ。
8月に入ってからも連日部活で通学していたので、夏休み気分などほとんど無い。
ゆるめの部に入っている友達からは、ハードだねと言われたけれど、私はむしろそのハードさが好きだった。
今思えば、中学の頃から両親の関係が徐々に悪化したことも、その一因だったのかもしれない。
当時の私にとって、家庭の内側に意識を置くよりも、外で忙しく過ごすこと――ひたすら走り、ボールを追いかけて身体を動かすことの方が、気が楽だったのかもしれない。
その日もバスケの夏練で登校した私は、帰宅途中、どろどろに溶けそうな暑さに堪りかねて、いつもの道からそれて別の通りへと向かった。その通りには大きめのコンビニがあるからだ。
どうにかコンビニに辿り着き、中に入って冷房のきいた店内をうろうろして身体を冷やし、ジュースを買って再び外に出た。
と、その時、通りの奥から3人組の男子が歩いてくるのに気がついた。
同じ中学生くらいに見えるけど、全員黒っぽい服、どぎつい派手な髪色(金、銀、赤)で、ジャラジャラしたシルバーやゴールドのチェーンを首にいくつもぶら下げている。
いかにも治安の悪そうな、夏休みにハメを外すイキった不良という感じで、大声で爆笑したりお互いを軽く突き飛ばしたりしながらこっちに向かってくる。
(うわ、あーゆーの、この辺にもいるんだ…)
もう一度コンビニ内に避難しようかと考えあぐねた時、3人のうちの一人、真っ赤な髪の男の子に目がとまり、私は思わず息を飲んだ。
上杉くんだ―――――
小学生の時より背はだいぶ高くなったけど、間違いない。
驚きで鼓動が速くなる。
彼らがすぐ近くまでやってきた。コンビニの中に戻るタイミングを逃してしまい、私は目を伏せてそのまま立ちつくした。
すれ違いざま、金髪の男子がこっちに声をかけてきた。
「どーも!コンニチワー!」
それを聞いた隣の銀髪が身をよじって手を叩き、ギャハハ!と大爆笑する。
「………」
怖すぎて固まって黙っていると、さらに金髪が「なんだよ?挨拶してんだからなんか言ってー?」と、こちらの顔を覗き込んで煽ってきた。
泣きそうになったその時だ。
「おい!」鋭い声が響いた。
上杉くんだった。
ハッとして私は顔を上げた。
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