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「やめとけ」
上杉くんがそう言うと、銀髪が金髪の肩に手を回し、「気にしないで?コイツ可愛いコ見ると誰でも声かけちゃうから」と私に笑いかけた。そして金髪の頭を軽く叩いて「ホラ、行くぞ」と引き連れていった。
「………」
無意識のうちに、上杉くんの方へと目が動いた。
ゆるくパーマをかけたんだろうか?ウェーブした少し長めの赤髪が、まるでメラメラと燃える炎みたいだ。
私達の視線がぶつかった。
卒業式ぶりの、あの黒くて透明な瞳が、真夏の強烈な太陽を反射して――というより、光を吸収して内から溢れるように輝いていた。
それは、ほんの1秒にも満たない出来事だったはずだ。
それなのに限りなくゆっくり、まるでスローモーションのように時間が流れた。少なくとも私にはそう感じられた。
私は、上杉くんの眼差しの強さ、圧倒的な煌めきに、さっきまでの怖さなんてすっかり忘れて見入ってしまった。
―――やがて上杉くんは表情を変えることなく無言で目線を外すと、クルリと背を向けた。
そして彼ら3人組は、そこから全く振り向くことなく、遠くに去っていった。
とりあえずホっとして、私は胸をなでおろした。軽く目を閉じ、ふーっとため息をつく。
それでも、まだ心臓はドキドキと音を立てていた。
上杉くんの、あの鋭く低い声と輝く瞳の印象が、胸の中に生々しく残っている。
急に喉の乾きを感じ、さっきコンビニで買ったジュースのボトルを開けてひと口飲んだ。オレンジの甘みと酸味が口の中に広がる。
(上杉くん…ずいぶん雰囲気変わったなぁ…)
どう見ても、図書室で本を読んでいた上杉くんと、さっきの赤髪にチェーンジャラジャラな彼とが同じ人格の持ち主とは思えない。
(一体、何があったんだろう…?)
ペットボトルをカバンにしまい、私は帰宅の道を歩き出した。
うだるような暑さの中、蝉の声が轟々と流れ落ちる滝みたいに鳴り響いていた。
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