1/2
前へ
/27ページ
次へ

その日の夕方、私は自分用のバスケットボールを持って近所の公園へと出かけた。 シュートやドリブルの自主練をして技術を高める目的もあるけれど、もうすぐ父親の帰宅時間なので、気まずい家の中よりも外にいたい、というのが正直な理由だ。 それだけではない。 昼間の出来事が――赤髪の上杉くんの姿が、強いインパクトとなって私の中で残光を放っていた。そのせいで、何だか胸の中が熱を帯びたように落ち着かず、とりあえず身体を動かして気分を変えようと思ったのだった。 公園に着くと、私はフェンス近くに設置されているバスケ用ゴールに向かってフリースローの練習を始めた。 辺りには、あたたかいオレンジ色の西陽が溢れている。 何本かシュートを打ったところで、同じくボールを持った女の子が近づいてくるのに気づいた。彼女も自主練にやって来たらしい。 「あれ、梨花…?」 その子が驚いた口ぶりで言った。 「あ…、友加里(ゆかり)?わー、久しぶり!」 女の子は小学校の時入っていたミニバスケクラブのチームメイトだった。 「ほんと、卒業してから会ってなかったもんね。梨花、どこ(ちゅう)だっけ?」 「蒼町。友加里は?」 「伊達川」 そう聞いて、私はちょっとドキっとした。伊達川は上杉くんの学校だ。 「部活、バスケ部?」 「うん、バスケやってるよ」 そこから私達は一緒にシュートやパスなどを練習してキャッキャと盛り上がった後、ベンチに腰掛けてお互いの近況についてお喋りをした。 私は友加里に、今日会った3人組について(金髪に絡まれたことには触れずに)話をしてみた。 「あ―、あの3人見たの?ヤバかったでしょ?伊達川では誰も怖がって近寄らないもん。休み前からあの髪で学校来ちゃうし。生意気だって3年の怖い先輩達からシメられたけど、逆にボコボコにして停学になったり」 「え…」 そんな暴力的なイメージは、過去の上杉くんの姿とあまりにもかけ離れていて、私は一瞬言葉を失った。 「…赤髪の人って、上杉くんだよね…?小学校一緒だった」 「その赤髪が1番ヤバい。停学何度もなってる」 「えっ、上杉くんが?」思わず声がうわずった。 「うん。でも今は上杉じゃなくて『岩本』だよ。中学入るタイミングで変わって」 「そうなんだ…。その、名字が変わったのは、なんで…?」 「なんか、小6の頃…?お父さんが突然消えたらしいよ。それでお母さんの名字に戻したんじゃない?」 「消えた?」 「うん、蒸発。家を出ていなくなった」
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加