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その日の夕方、私は自分用のバスケットボールを持って近所の公園へと出かけた。
シュートやドリブルの自主練をして技術を高める目的もあるけれど、もうすぐ父親の帰宅時間なので、気まずい家の中よりも外にいたい、というのが正直な理由だ。
それだけではない。
昼間の出来事が――赤髪の上杉くんの姿が、強いインパクトとなって私の中で残光を放っていた。そのせいで、何だか胸の中が熱を帯びたように落ち着かず、とりあえず身体を動かして気分を変えようと思ったのだった。
公園に着くと、私はフェンス近くに設置されているバスケ用ゴールに向かってフリースローの練習を始めた。
辺りには、あたたかいオレンジ色の西陽が溢れている。
何本かシュートを打ったところで、同じくボールを持った女の子が近づいてくるのに気づいた。彼女も自主練にやって来たらしい。
「あれ、梨花…?」
その子が驚いた口ぶりで言った。
「あ…、友加里?わー、久しぶり!」
女の子は小学校の時入っていたミニバスケクラブのチームメイトだった。
「ほんと、卒業してから会ってなかったもんね。梨花、どこ中だっけ?」
「蒼町。友加里は?」
「伊達川」
そう聞いて、私はちょっとドキっとした。伊達川は上杉くんの学校だ。
「部活、バスケ部?」
「うん、バスケやってるよ」
そこから私達は一緒にシュートやパスなどを練習してキャッキャと盛り上がった後、ベンチに腰掛けてお互いの近況についてお喋りをした。
私は友加里に、今日会った3人組について(金髪に絡まれたことには触れずに)話をしてみた。
「あ―、あの3人見たの?ヤバかったでしょ?伊達川では誰も怖がって近寄らないもん。休み前からあの髪で学校来ちゃうし。生意気だって3年の怖い先輩達からシメられたけど、逆にボコボコにして停学になったり」
「え…」
そんな暴力的なイメージは、過去の上杉くんの姿とあまりにもかけ離れていて、私は一瞬言葉を失った。
「…赤髪の人って、上杉くんだよね…?小学校一緒だった」
「その赤髪が1番ヤバい。停学何度もなってる」
「えっ、上杉くんが?」思わず声がうわずった。
「うん。でも今は上杉じゃなくて『岩本』だよ。中学入るタイミングで変わって」
「そうなんだ…。その、名字が変わったのは、なんで…?」
「なんか、小6の頃…?お父さんが突然消えたらしいよ。それでお母さんの名字に戻したんじゃない?」
「消えた?」
「うん、蒸発。家を出ていなくなった」
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