嘘だよと言ってほしかった

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4(エイプリル)1(フール) サプライズ好きの夫は毎年何かしらの (ジョーク)を仕掛けてくる。 結婚当初は可愛らしい嘘だったのが 年々、エスカレートし 昨年はとうとう 「キミ以外に好きな人ができた」 とあまり笑えない(ジョーク)を言い 夫婦ケンカに発展、修羅場となった。 そして今年… それは一本の電話から始まった。 「もしもし、○○様のお宅ですか?奥さまでしょうか?突然なのですが…」 病院からだった。 一瞬、相手のコトバに耳を疑ったが 壁に飾ってあるカレンダーに 目をやると 〝あー、ハイハイ。今日は4(エイプリル)1(フール)だもんねー。性懲りも無く困った(シュジン)だわ…。〟 と昨年の笑えない(ジョーク)を思い出 し、若干呆れて腹立たしかったが夫はそ ういう人なのだ。 良くも悪くもサプライズが好きな人なのだ。 昨年の修羅場の後、自分のついた嘘で私を 傷つけた事を猛省した夫はあの日、 「本当に悪かった。ふざけすぎました。」 と床にめり込むんじゃないかと思うくらいに自分の頭をつけて土下座し、 「こんなオレですが、これからもずっと一緒に居てください!」 と2回目のプロポーズと指輪をプレゼントしてくれたのだった。 なのに、今年もまた… そんな事を考えていると電話の向こうから 「もしもし?奥さま?大丈夫ですか? 聞こえてらっしゃいますか?〇〇様がですね…」 電話の声はずっと続いている。 〝これはきっとタチの悪い(ジョーク)だ。〟 「いい加減にして…。」 力が抜けて床へとしゃがみこんだ。 「ご主人様が交通事故に巻き込まれてこちらの病院に運ばれたのですが、先ほどお亡くなりになりました。」 電話の相手は静かにこう告げていた。 すぐにでも、玄関扉が開き 「ただいまー! 今日はエイプリルフールだよ!」 とちょっと得意げな笑顔で 夫が帰ってくる気がした。 けれど… 何時まで待っても扉が開く事はなかった。 〝 嘘だよと言ってほしかった 〟 ─完─
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