隙間目

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「仕事で使う連絡先を私用で使ってすみません」 「とんでもない。安心しました」  内見の時に教えた、不動産のアプリを通じた連絡で朝比奈さんにお礼をのべた。私は当日退院することができた、感謝していると伝えていくつか連絡をやりとりして。体調が戻った私は、朝比奈さんにカフェで昼食をご馳走している。お礼をしないと気が済まない、という私のゴリ押しに応じてくれたのだ。 「思い出しました。あの時の顔はやっぱり男で、きっと空き巣目的だったんです。あの後もう一度調べました。あのアパートって家具備え付けなんですけど、部屋ごとに家具の配置が違ったんです」 「下の部屋ではその場所にベッドはなかった。だから、無人の時に穴をあけていたということですか」 「そしたらベッドがあって。これは困ったと思っていたら私と目があっちゃったんでしょうね。私、当時はほぼベッドの上で過ごしてたから物音もしなかったでしょうし」 「下の階の天井にも穴はあったのでしょうか?」 「さすがにそこまでは見れなかったんですけど。まあ、大家にばれないようきれいに修復したでしょう」 「証拠もないし、昔のことなら警察に通報しても微妙ですね」 「はい。それにもういいんです。私の中では幽霊じゃないってわかったから。もう隙間を怖がる必要もないですし」  穏やかな空気。どうしよう、ちょっと言い出しにくい。 「それで。ナトラ、という人とはその後は?」 「あ……」 「その相談なのでしょう? 今日は」  穏やかに微笑む。そうなのだ、実はナトラとの事を相談したかった。他に相談できる人いないし。図々しいし客と店の域を超えているのはわかっているけど。 「すみません」 「いえいえ。乗りかかった船ですし。俺、あ、失礼しました。私も気になっていましたし」 「あ、いえ。あの、俺、でいいですよ」 「そうですか? では遠慮なく。それで……?」  打ち解けたようで、少し嬉しい。 「あれから、少しそっけない返事をしていたら急に。その、ストーカーみたいに四六時中連絡くるようになって。前はこんなことしなかったのに。怖くて」  朝比奈さんは食事の手を止める。 「今までの会話などから、ナトラが当時下の階の男という可能性を考えたのですね」 「はい。漫画の見過ぎですよねこんなの」 「そんなことありません」  朝比奈さんはきっぱりと否定する。その表情は真剣だ。 「情報化社会の今、一般の人でも簡単に個人の特定はできますよ。いくらでもそういうことを調べる業者はいます。我々の業界では、ストーカー対策の立地やセキュリティは最優先にすべきことなのです」  そっか、殺人事件とかで犯人が侵入したとなるとセキュリティどうなってるんだと必ず叩かれている。不動産業者にとってはこういうのは無視できないんだ。
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