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家具備え付けじゃない、何もない部屋を。
そんな希望を言うのは珍しかったのか、不動産の人は不思議そうな顔をした。普通は家具付きだと喜ばれるはずだから。が、さすがはプロだ。ささっと検索をしていくつか見せてくれた。
自分で部屋をカスタムしたい人、って思ってくれればいいな。そんな風に考える。いくつか目星をつけて一度家に帰って検討しますと不動産を出た。
でも、家には帰りたくない。今住んでいるアパートではなく、てきとうにファミレスに入った。先程目星をつけたいくつかの部屋を眺めながら、ドリンクバーで気を紛らわせる。だめだ、気にしちゃいけない。アプリでナトラに連絡をした。
「おう、どうしたよ?」
「ヒマなんよ~」
気さくなナトラと連絡するとちょっと気がまぎれる。今日はリモートワークだから家だよ、酒飲みながらやれるの最高だと書いてある。その文面に私はちょっと笑った。
「私今ファミレスで豪遊中ですわ」
なんでもない会話を続け、ドリンクバーをおかわりに行った。丁度コップがなくなったらしく、店員が空のラックをどかした時。見えてしまった。ラックが入っていた場所。
隙間。
ドクン、と心臓が鳴る。ドクドクと鼓動が速くなる。嫌だ、どうして。頭によぎるアパートの部屋の光景。隙間なんてできないように、しっかり詰めていたのに。それなのに、何故かできていた隙間。
怖い、怖い。
震える手でコップを持って、急いでナトラに連絡をする。
「あの押す町のたかし」
「はい? なに?w」
震えていたせいで、予測変換を連打してしまいわけのわからない文面になってしまった。怖い、違う、落ち着いて。大丈夫だから。見るな見るな見るな、あっちを見るな。
「おーい?」
「まって ごめん」
「何かあった?」
「まって まって まって まって」
呼吸を整える。こんなにダメになるなんて。五分して、ようやく落ち着いた。
「ごめん。大丈夫。ちょっと、こう。持病みたいのがあって、発作が出た」
「え、初耳なんだけど。本当に平気?」
「うん」
「どんなものか聞いてもいい? 今後無理そうなら、連絡少なくしようか」
それだけは嫌だ。ナトラとの繋がりは今の私の救いなんだから。
「そうだね、ちょっと教えておくね」
距離を置かれたくない一心で、私はナトラに教える覚悟を決めた。
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