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予約当日、来たのは窓口の人ではなく営業担当の朝比奈さんという男性だった。私は初めて間近に見るイケメンに内心ドキドキだ。浮かれている、という意味じゃなく。こう、顔面偏差値が高い人って遠巻きに眺めるものであって近くにいると落ち着かない。でもこの人の顔は切れ長の目で目じりに笑いじわがあるから、「あの顔」と結びつかなくてちゃんと見れる。
柔らかい雰囲気と心地よい距離感、そして豊富な話により私は珍しく緊張せず自然と話せていた。内見しながら話をしていたけど。私がしきりに部屋の隙間の位置を気にするのが気になったらしい。
「何かご確認したいことや、ご要望はございますか?」
何してるんですか、と言わないのが嬉しかった。迷ったけど、どうせあと数回顔を合わせるだけだし。久しぶりに人と話せて嬉しかったのもあって、私はナトラとの会話を説明した。するとふんふん、と聞いていた朝比奈さんが急に怪訝そうな顔をした。
「その、ナトラさんという方とは直接のお知り合いですか?」
「SNS通じて知り合っただけですけど。どうしました?」
「いえ、少し気になったのですが。先程の話であなたは顔、としか言っていませんよね? 私は髪の長い女を勝手に想像したのですが」
幽霊というと、確かにそうかもしれない。
「なぜ、ナトラさんは”男”と言い切ったのです?」
「え……」
『その男はもう見てないの?』
「えっと。ナトラは男だと、思ったとか……」
「それなら私のようにその顔、とか。その幽霊、と言うと思うのですが。実際ソレは男だったのですか?」
「あ、いえ、よく覚えてなくて……」
「それに、もう見ないの? という言い方もなんだか違和感があります。初めて聞いたわりには、今の状況を知っているかのような言い方だなと思ってしまって。申し訳ありません、ご不快にさせてしまって」
「い、いえ。お気になさらず……」
もう見てないの?
つまり、「もう見てないよね?」ってこと? 言われてみれば確かに。あの会話なら「今も見えるの?」が、正しいかもしれない。些細な事だ。大したことじゃない、のかもしれないけど。でも。
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