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「え?ちょっと、どうしたの?冴島さん」
話があると呼び出されたカフェで、いきなり頭を下げる大河に千秋は面食らう。
「申し訳ない。あんなことを言っておいて、今更こんな…」
「とにかく顔を上げて。ね?」
周りの目が気になり、千秋は大河の顔を覗き込んで促した。
ゆっくりと顔を上げると、大河は神妙な面持ちで千秋に事情を話し始める。
「彼女にはもう関わらないときっぱり言っておきながら、今頃になって助けて欲しいなんて…。身勝手なのは承知の上です。だからこの話は、千秋さんから断ってくれても構わない」
話を聞き終えると、千秋は視線を落として考え込んだ。
大河はひたすら黙って千秋の返事を待ち続ける。
「冴島さん」
「はい」
「冴島さんは、自分達が関わらない方が瞳子にとって良いと思ってるのね?」
「はい、そうです」
「私はそうは思わないわ」
え?と大河は思わず視線を上げる。
「瞳子は、確かにまだ男性が苦手だけど、あなた達のことは大好きなのよ」
思いも寄らない言葉に、大河は驚いて瞬きを繰り返す。
「え、それは、どういう…?」
すると千秋はクスッと笑った。
「もうね、あの子、アートプラネッツの大ファンなのよ。次のミュージアムにも絶対に行く!何としてでも行く!って張り切ってるの。楽しみで仕方ないみたい。あんなに子どもみたいに目を輝かせる瞳子は初めてだわ。あの子、冴島さん達のオフィスでお世話になってから、随分明るくなった気がするの。きっとあなた達のおかげで、毎日楽しく過ごしてたんでしょうね」
大河は、あの頃の様子を思い出す。
皆でワイワイ賑やかに、仕事なのか遊びなのか分からないくらい楽しんでいた日々。
アメリカンハイスクールもどきの仮装をして笑い合った瞳子の誕生日。
はしゃぎまくる透に呆れながらも、一緒になって盛り上がっていた毎日。
皆の中心には、いつも笑顔の瞳子がいた。
「ねえ、冴島さん。瞳子はあなた達といると、自分は男性が苦手だってことも忘れていられたんじゃないかしら?」
大河はゆっくりと千秋の言葉を噛みしめる。
(きっとそうだ。彼女はただ素直に明るく笑っていた。俺達といて、心底楽しそうだった)
確かめるように千秋を見ると、千秋はふっと笑って大河にしっかりと頷いてみせた。
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