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大河がミュージアムを、洋平がホーラ・ウォッチを、吾郎が企業のCMコンテンツ、そして透がテーマパークのクリスマスショーを担当し、瞳子は全面的に皆をサポートする日々を送っていた。
洋平達3人が先方に打ち合わせに行き、オフィスにいるのは大河と瞳子だけになったある日の午後。
大河は、漂ってきた何やら甘くて美味しそうな匂いに、思わず手を止めて顔を上げる。
奥のカウンターキッチンに目をやると、瞳子が真剣な表情で何かを作っていた。
エプロンを着けて髪を後ろで1つに束ね、手元に顔を寄せるように身を屈めている。
(何を作っているんだ?お菓子か?)
そう思っていると、ただいまーと透がドアを開けて入って来た。
「やあ、アリシア。今戻ったよ…って、何?このいい匂い。クッキー作ってるの?」
「あ、透さん!お帰りなさい。そうなんです、ちょっと今、格闘してまして…」
「ええ?!何これ、雪の結晶のクッキー?」
「はい、アイシングクッキーです」
「そうなんだ!こんな手の込んだものを俺の為に?」
ん?と瞳子は首をひねる。
「えっと、ミュージアムのオープニングイベントで、子ども達やゲストに配るお菓子を考えていて。雪の結晶柄のアイシングクッキーを業者にオーダーしようかと、今、見本を作ってるんです」
「へえー、売り物みたいなクオリティだね。業者に頼まなくても、このままでいいと思うけど?」
「いえいえ、まさか手作りの品なんて渡せませんから。雪の結晶のクッキーを取り扱ってるお菓子屋さんはいくつかあるんですけど、柄が忠実ではなくて。私、どうしても
樹枝六花を作りたいんですよね」
透が、何それ?と尋ねると、瞳子は顔を上げてデスクにいる大河に声をかけた。
「大河さん、樹枝六花の写真ありますか?」
「ん、あるよ」
大河は、いつぞや瞳子がまとめてくれた資料の中から、繊細で美しい雪の結晶の代表格、樹枝六花の写真を取り出して立ち上がる。
キッチンまで行き、瞳子の見やすい位置に写真を置くと、ありがとうございますと瞳子がにっこり微笑んだ。
そして写真をじっと見比べながら、小さな三角形のコルネを絞って、結晶の形の大きめのクッキーに模様を描いていく。
「うわー、なんて綺麗なんだ!芸術的だよ、アリシア。こんなの、もったいなくて食べられない」
「ふふ、そうですか?透さん、味見してもいいですよ」
「ほんと?いただきまーす!」
パクっと勢い良く頬張る透に「お前たった今、もったいなくて食べられないって言わなかったか?」と大河が呆れる。
「うんまっ!めちゃくちゃ美味しいよ、アリシア。君はどこまで俺を惚れさせるんだい?こんなに美人な上に、お菓子作りまで出来るなんて。君さえいてくれたら、俺の毎日は薔薇色さ」
「あーもう!聞いてるこっちが恥ずかしいわ!」
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