空間の支配者

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「皆様、本日は『ホーラ・ウォッチ』新作モデル発表イベントにようこそお越しくださいました」 以前と同じ吹き抜けのスペースに、瞳子のよく通る綺麗な声が響く。 にこやかに観客を見渡しながら、淀みなく語りかける口調は気品に溢れ、瞳子の華やかさや美しさも相まって思わず見とれてしまう。 「生き生きしてるな、瞳子ちゃん。やっぱり司会が好きなんだろうな」 吾郎の言葉に、隣の大河も同意する。 「ああ、そうだな。それに本当に司会に向いてる。一気に人の心を引きつける華やかなオーラが、彼女にはある」 Master of Ceremonies、と大河は小さく呟いた。 (そうだ、今の彼女はこの空間の支配者だ。彼女はそれだけの存在感と華を持っている) 凛とした佇まいの瞳子を見つめていると、ふいに耳に着けているインカムから、しゃがれた声が聞こえてきた。 『間宮さーん!そろそろ谷崎さんそっちに向かうけど、いいー?3分足らずで着くと思うんだけど』 またか!と大河は呆れる。 (司会者に、いいー?と聞いて返事が来ると思うのか?司会してる真っ最中だっつーの!気が散るわ!) 大河は瞳子に目配せして、インカムを外せというジェスチャーをする。 瞳子は一瞬だけ大河に苦笑いしてみせると、インカムを外した。 大河が指で2と指示を出し、小さく頷いた瞳子は、フリートークで2分繋いだ。 大河のOKのサインを見て、いよいよハルを紹介する。 「それではご紹介しましょう。ホーラ・ウォッチのイメージキャラクターを務める、女優の谷崎 ハルさんです。皆様、どうぞ大きな拍手でお迎えください!」 「こんにちは。よろしくお願い致します」 真っ白なワンピースで現れたハルは、客席を笑顔で見渡してから、瞳子にはにかんだ笑みを向ける。 「うわ、可愛いなー。美女が二人。空気が浄化されるぜ」 「吾郎、気を抜くな。映像の準備は?」 「バッチリだって。ステージの上の瞳子ちゃんを、またまた感動させてやろうじゃないの」 そう言って、アートプラネッツのメンバー用のインカムで最終確認をする。 『透、そっちはどうだ?』 ピッという信号のあと『いつでもオッケー!』と透の声がした。 『了解。洋平はどうだ?』 『んー、1回システム落ちた』 ええ?!と吾郎が驚くが、洋平は平然と続ける。 『これくらい想定内だ。今、回復した。これでもう落ちないはず』 吾郎は、チラリと大河に視線をよこす。 「大丈夫だ、洋平だからな」 「ああ、確かに。透じゃないもんな」 ははっ!と思わず笑ってしまった時だった。 「おっ、確かあの子だよな?倉木アナの彼女」 「うひゃー、マジで可愛いな」 「写真撮ってネットに上げようぜ」 そう言って立ち止まった男の子二人が、大河と吾郎のすぐ近くでスマートフォンを瞳子に向ける。 「お客様。恐れ入りますがここは機材設置エリアでございます。直ちにご移動願います」 スッと前に立ちはだかり、有無を言わさぬ圧をかけながら大河と吾郎がジロリと睨むと、男の子達は慌てて離れていった。 「やれやれ。まだ噂は続いてるのか」 吾郎は心配そうにステージに目をやる。 ステージの上では、瞳子が楽しそうにハルとトークショーをしていた。
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