空間の支配者

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「お疲れー。今回もなんとか無事に乗り切ったな」 「ああ。さすが洋平だな、いい作品だったよ」 「サンキュー。さてと、とっとと撤収しますか」 大河が洋平と観客席の後方で機材の片付けを始めると、後ろをバタバタと慌ただしく通り過ぎる足音がした。 「裏口から出るんじゃないか?お前、そっちに回ってくれ」 「分かった」 「出て来たところを捕まえて、カメラ回せ。何でもいいからコメント取れよ」 なんだ?と大河は声の主を振り返る。 マスコミの腕章を着けた男性が二人、カメラを手に去って行く。 (谷崎 ハルを追っかけてるのか?大変だな、芸能人は) そう思いながら再び作業に戻ろうとして嫌な予感がした。 「洋平、悪い。ここ頼む」 「ああ。どうかしたか?」 「うん、ちょっとな。吾郎達と先に帰っててくれ」 手短に言い残すと、大河はマスコミ二人のあとを追う。 一人は出口から外へ出て行き、もう一人は観客席の後ろの柱に隠れるように身を潜めていた。 大河は脱いでいたスタッフジャンパーを再び羽織り、柱の近くでインカムに話しかけるフリをする。 「司会の間宮さん、取れますか?もう一度ステージ横に来てください」 すると柱にもたれていた男性がハッとしたように身を起こし、急いでカメラを構える。 (やっぱりか…) 大河は足早にその場を離れると、Staff Only と書かれたドアを開けてバックヤードに入った。 いくつか部屋が並んでいるが、瞳子の控え室がどこなのかは分からない。 誰かに聞こうかと辺りを見回していると、「じゃあ、またね!ハルさん」 と明るい声がして、少し先のドアから瞳子が出て来た。 先に挨拶回りをしていたらしく衣装のままで、近付いてきた大河を見て驚いたように目を見開く。 「大河さん?どうかしましたか?」 「ああ。もう帰れるか?」 「え?あ、はい」 「よし。すぐにオフィスに戻ろう」 大河のただならぬ雰囲気に戸惑いつつ、瞳子は控え室から荷物を持ってくると、大人しくあとをついていく。 バックヤードにあるエレベーターで地下一階まで下りると、そのまま駐車場へ向かった。 ドアを開けて辺りの様子をうかがうと、大河は瞳子を自分の背中にかばうようにして、車へ急ぐ。 助手席に瞳子を乗せ、自分も運転席に回ってドアを閉めると、ようやくホッとしたように息をついた。 「あの、大河さん?どうかしましたか?」 不思議そうに聞いてくる瞳子に、いや、何でもないと答えて、大河はエンジンをスタートさせた。
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