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「ではでは、本日もお疲れ様でした。メリークリスマース!」
パーティーハットをかぶった透が明るく声をかけ、皆もグラスを掲げる。
「はあー、山場も越したし最高に気分いいな。あとは吾郎の企業CMコンテンツを納品したら、年内の仕事は終了だな」
「ああ。やっとゆっくり出来るー!」
透と吾郎が嬉しそうに両手を挙げる。
だが、洋平が「年明けって、何の仕事入ってたっけ?」と言うと、二人はガックリと両手を下ろした。
「洋平。せめて今は忘れさせてくれー」
「そうだよ。来年の話なんて、気が早すぎるぞ?」
「来年って…。あと1週間後だぞ?」
「だーかーら!今は現実逃避させてくれ」
「そうだよ。しかもクリスマスだよ?」
やいやい言い合う3人に、大河がおもむろに口を開いた。
「年明けは仕事の量もそこまで多くない。ミュージアムも続行だし、依頼された案件も納期はゆとりがある。もう俺達4人で充分こなせる」
え…、と3人は真顔になる。
「俺達4人で?それって…。瞳子ちゃんは、もう?」
「ああ、手伝ってもらう必要はない」
「そんな!」
透が強い口調で身を乗り出す。
「手が足りてるから必要ないとか、そういう問題じゃないだろ?」
「じゃあどういう問題だ?」
「俺達には彼女の感性が必要なんだ。男だけの視点から一気に幅が広がったのは、大河だって認めるだろ?」
大河は黙って視線を落としている。
「おい、何とか言えよ!」
見かねた洋平が透を手で制した。
「落ち着け、透。そして大河。どうして瞳子ちゃんのこととなると、急に1人で何もかも決めつけるんだ?そもそも瞳子ちゃんの気持ちは聞いたのか?」
「そうだよ。瞳子ちゃんは?もうこの仕事から離れたいって思ってるの?」
それまで黙って話を聞いていた瞳子は、吾郎に返事を求められて戸惑う。
「それは、あの…」
「瞳子ちゃんが大河に話したの?この仕事辞めたいって」
「いえ、そんなことはないです」
「じゃあ、どうしてだよ?大河。説明してくれ」
皆の視線はまた大河に注がれる。
重苦しい表情で大河は口を開いた。
「知らず知らずのうちに、負担をかけていると思うからだ。俺達の知らないところでな」
「なんだよ、それ?意味分かんないよ!」
再び透が声を荒げる。
「あの、待ってください。透さん、お願いだから落ち着いて」
堪らず瞳子は口を挟んだ。
「えっと、私は忙しい年内のお手伝いを頼まれて、お引き受けしました。なので一旦区切りとして、ここから離れますね。もしまた何かお手伝いが必要な時はお声かけください。これからも出来る限りお力になれたらと思っています」
「瞳子ちゃん…」
「あ、ほら!せっかくのクリスマスパーティーで、お料理もこんなにたくさんあるんですから、食べましょう!ね?」
「…そうだな。今夜はとにかく楽しもう。分かったか?透」
洋平の言葉に、透は渋々頷いた。
「よし!じゃあ食べるか」
「私、取り分けますね。ケーキも冷蔵庫にありますから」
「おー!いいね」
瞳子はなるべく笑顔で皆を盛り上げる。
そんな瞳子の様子を、大河は思い詰めた表情で見守っていた。
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