思いがけない電話

1/3
前へ
/195ページ
次へ

思いがけない電話

「大河。頼まれてた資料、ここに置いておくぞ」 「ああ、サンキュー」 パリで上映する作品作りに、4人は力を合わせて取り組んでいた。 和のテイストでまとめ、日本の美しい風景をデジタルの世界で表現していく。 コンピュータテクノロジーで、古き良き日本の伝統を伝えられるのか? そんな迷いはもうなかった。 大河の心にあるのは、あの時の瞳子の言葉。 『本物か偽物か、なんて関係ないです。良いものは良い、それだけです』 今も、そしてこれからも、瞳子の言葉は自分の道しるべだった。 一方で、瞳子のことを思い出す度に胸が苦しくなる。 あんなにも純粋な彼女が、一生恋愛出来ないと言い切るなんて。 なんとかして救ってやりたい。 だが、男である自分には出来ない。 なぜなら彼女を苦しめているのは【男性】だからだ。 どうすればいいのだろう、と考え始めると堂々巡りになり、抜け出せなくなる。 大河は頭を振って、目の前にあるやるべきことに集中しなければ、と気を引き締めた。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6168人が本棚に入れています
本棚に追加