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3月に入ったある日。
大河のデスクに置いていた仕事用のスマートフォンに、見覚えのない番号から電話がかかってきた。
誰だろう?と思いながら出てみる。
「はい、冴島です」
『もしもし、私、TVジャパンの倉木と申します』
えっ!と大河は驚いた。
「倉木さん、ですか?」
『はい。突然ご連絡差し上げて申し訳ありません。今お時間少しよろしいでしょうか?』
「はい、大丈夫です」
大河はスマートフォンを握り直して耳を傾ける。
『実は、本日情報が解禁になったばかりなのですが…。私、来月の4月から夜の報道番組のメインMCを務めることになりました』
「えっ、報道番組の?すごいじゃないですか!」
『ありがとうございます。誰よりも先に、自分の口から冴島さんにお伝えしたくて』
「私に?どうして…」
『自分が今こうしていられるのは、冴島さんのおかげだからです。あの時の冴島さんの言葉があったから、私はなんとか踏ん張って来られました』
「あの時の…」
大河は以前、テレビ局の前で待ち伏せしたことを思い出す。
辛い状況にいる倉木をなんとか励ましたくて、声をかけた。
『冴島さん、本当にありがとうございました。これから先も数々の試練が待ち受けていると思いますが、あなたから頂いた言葉は決して忘れません。明けない夜はない、必ずまた陽は昇る。この言葉を、この先もずっと胸に刻んで精進していきます』
大河は胸がいっぱいになった。
自分の言葉を大切にしてくれ、今もこうして連絡をくれるなんて…。
「こちらこそ、ありがとうございます、倉木さん。そしておめでとうございます。陰ながら応援しております。新番組、楽しみにしていますね」
『ありがとうございます。それから、冴島さん。恐れ入りますが…、伝言をお願い出来ないでしょうか?』
ためらいがちにそう聞いてくる。
「伝言、ですか?」
『はい。間宮さんに伝えて頂きたいのです。送って頂いたジャケット、確かに受け取りました。ありがとうございました、と。お礼を言うのが遅くなって申し訳ありませんと』
「分かりました。伝えます」
『ありがとうございます。それともう一つ…』
少し間を置いてから、倉木は思い切ったように続けた。
『もしまたどこかで偶然会ったとしても、返事はいらない、と。そうお伝えください』
「…分かりました」
大河は言葉の意味を考えつつも、頷いた。
『よろしくお願い致します。冴島さん、この度は本当にありがとうございました。御社の活躍ぶりもいつも拝見しております。今後は海外にも活動の場を広げられるとか。お身体に気をつけて、ますますご活躍ください』
「ありがとうございます、倉木さんも。いつか、アートプラネッツをあなたの番組で取り挙げて頂けるよう、頑張ります」
すると倉木は、明るい声で返事をした。
『はい!その時はぜひ取材に伺わせてください。必ず実現出来るよう、その日を目標に私も頑張ります』
ええ、と大河も力強く頷いた。
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