6162人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの、大河さん」
見かねて瞳子が話し始めた。
「私、以前にもお話しましたが、男性とおつき合いすることは出来ないんです」
「いや、だから…。つき合うとか、そんなことは考えなくていいんだ。ただ、こうやって時々二人で話したり、どこかに遊びに行ったりするだけならいいか?」
「それは、恋愛じゃなくて?」
「そう。ほら、小学生の男女が一緒に遊んでても、つき合ってるとは言わないだろ?」
「え、言いますよ?最近の子は5年生でも、彼氏いまーすとか言うんですって」
「ええー?!そうなのか?すごいな、令和の時代って」
いや、そうじゃなくて!と大河は自分に突っ込む。
「それなら、たとえ幼稚園児と同じだと言われてもいい。君と一緒に過ごしたいんだ」
瞳子はパチパチと瞬きしてから、ためらいがちに口を開いた。
「あの、これは私の率直な気持ちなんですけど…」
「ああ、なんだ?」
「大河さんと一緒に遊びに行くのは、楽しそうだなって思います。それに大河さんのお気持ちも嬉しいです。でも私、大河さんの望むことは何も出来ないかもしれません」
「もちろん、構わない。君に何かをして欲しいとか、こう思って欲しいなんて望んでいない」
「一緒にいて、その先に関係が変わっていくこともないかもしれません」
「ああ、それでいい」
「本当に?大河さんなら、どんな女性とでも恋愛出来るでしょう?どうして私なんかに、そんな無駄な時間を使おうとするんですか?」
すると大河は、正面から真っ直ぐに瞳子を見つめた。
「無駄な時間なんかじゃない。俺が君のそばにいたいんだ。頭であれこれ考えずに、ただ素直な気持ちを聞かせてくれないか?」
瞳子はしばし間を置いてからコクンと頷く。
「これから時間がある時は、メッセージを送ってもいい?」
瞳子はまたコクンと頷く。
「良かった。じゃあ今夜はこれで」
「え?!終わり?」
「うん。え?ダメなの?」
「いや、だって。あんなに長々話してくれたのに、最後はそんなにあっさりなんて…」
大河は瞳子の顔を覗き込む。
「それなら、その…。手に触れても、いい?」
恐る恐る聞くと、瞳子はちょっとうつむいてから頷き、膝の上にあった両手を小さくキュッと握る。
大河はおずおずと手を伸ばし、瞳子の両手をそっと掬い上げてから優しく握りしめた。
瞳子はちらっと上目遣いに大河を見ると、すぐにうつむいてはにかんだ笑みを浮かべる。
(か、可愛い…)
大河は思わず顔を真っ赤にする。
身体中が一気に熱を持つのが分かった。
下唇を噛んで、抱きしめたくなる衝動を懸命に抑えた。
「大河さん?大丈夫ですか?」
梅干しでも食べたような顔の大河に、瞳子が心配そうに尋ねる。
「大丈夫だ。なんのこれしき」
そうだ、自分は少しでも彼女の傷を癒やし、もう二度と傷つかずに済むように、そばにいさせてもらうんだ。
彼女を守れるなら、それだけでいい。
己の欲なんて抑えてみせる。
たとえ相手が、美人でスタイル抜群で、笑顔も可愛らしく、優しくて健気な…、そう、とびきり素敵な極上の女性でも。
大河は心に固く誓うと、大きな手のひらで瞳子の両手を優しく包み込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!