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『え、大河さん。久しぶりのお休みなんですか?だったら、ゆっくり身体を休めた方がいいと思いますけど』
電話の向こうで瞳子の澄んだ声がする。
その心地良さに気持ちが安らぐのを感じながら、大河は説明した。
「いや、ちゃんと睡眠取ってるから身体は大丈夫だ。ただ、映像を作るのに掛かりきりで、良いアイデアが浮かばなくなってきた。そういう時は一度離れて気分転換した方が、後々の為にはいいんだ」
『そうなんですね、確かに』
「だからどこかに出かけないか?君の休みの日に。もちろん、無理にとは言わない。嫌ならそう言ってくれれば…」
『明後日です』
え?と大河は聞き返す。
『明後日です。私の次のお休み』
「あ、そう…」
しばしポカンとした後、ハッと我に返った。
「そ、それなら明後日、一緒にどこかに出かけないか?」
『はい』
「あ、いい?行ってもいいの?」
クスッと瞳子が小さく笑う。
『大丈夫ですよ』
「良かった!じゃあ、どこに行くか考えておいて」
『分かりました』
「また連絡するから」
『はい。大河さん、お仕事頑張ってくださいね』
「ありがとう、君も」
電話を切った途端、大河は一気に頬を緩める。
あれから毎日少しずつ瞳子とメッセージのやり取りを始め、たまに電話で他愛もない話をするが、会うのはあの日以来だった。
もちろん、二人でどこかに出かけるのも初めてだ。
浮足立つ気持ちを抑え、大河は冷静に己に言い聞かせる。
(いいか、彼女を野蛮なヤロー共から守るんだ。そして異性と二人で出かけても、心にバリアを張らなくてもいいように慣れてもらう。そう、目指すは心のバリアフリー)
真顔で頷いた後、ついまたニヤリとしてしまい、慌てて気を引き締めた。
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