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やがて美術館に着き、二人は早速館内をくまなく観て回る。
「今年は印象派が誕生して150年の節目なんですね」
「ああ。昨年から印象派の展覧会が、日本国内でも次々と開催されてる」
「印象派って、フランスで始まったんですよね。あ!大河さん達、もうすぐフランスに行くじゃないですか。いいなー。私もいつか行ってみたいんですよね、オランジュリー美術館に」
「絵画、好きなのか?」
「詳しくはないですけど、観るのは好きです。美術館の建物とか雰囲気も、心が洗われるような気がして好きですね」
二人でじっくり絵を眺めていると、ふいに横から女性二人組の会話が聞こえてきた。
「え?何、この美男美女カップル。ドラマか何かの撮影?」
「うわっ、すごいオーラ。カメラどこ?」
「ちょっと、映っちゃうかもよ?離れようよ」
大河が周りを見ると、なぜだか遠巻きに皆がこちらを見て囁いている。
視線を瞳子に戻した大河は、さもありなんと納得した。
美しい立ち姿で顔を上げ、じっと絵を見つめているその姿は、まるでそこだけが別世界のように見える。
絵画の前に佇む瞳子を含めて、その光景が芸術であるかのように。
気安く声をかけるのもはばかられ、人々は遠くから瞳子に目を奪われていた。
改めて、瞳子はこんなにも人目を引く美人なのだと再認識していると、瞳子は大河を振り返り、にこっと微笑んだ。
「大河さん、お腹空いちゃった。ミュージアムカフェでランチしません?」
「ん?ああ、そうしよう」
二人は周囲の注目の中、美術館に併設されたカフェのテラス席に案内される。
「気持ちいいですね!外の空気。見て、ツツジがとっても綺麗。美術館の外観とも合っていて、素敵ですね」
何を見ても目を輝かせて嬉しそうに微笑む瞳子に、大河もつられて笑みを浮かべる。
「このクロックムッシュもとっても美味しい!」
飾らない自然体の瞳子は、外見の美しさよりも内面が魅力的だと大河は思った。
何でもないことが、瞳子といると楽しくなる。
ただやはり気になるのは、周囲の目だ。
男達はこぞって瞳子を振り返り、ニヤニヤと無遠慮に眺め回す。
自分が少しでも離れれば、誰かが瞳子に声をかけるだろう。
そう思い、大河はどんな時も瞳子のそばを離れなかった。
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