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渡仏する前夜。
ギリギリまで粘って作品を仕上げてから、自宅に戻る途中、大河は瞳子のマンションに立ち寄った。
「これを返そうと思って。ありがとう、すごく参考になったよ。おかげで良い作品が出来た」
マンションのエントランスで、借りていた本や品を瞳子に返す。
「どういたしまして。少しでもお役に立てたなら良かったです。パリの展覧会、盛況をお祈りしています」
「ありがとう。必ず成功させてみせるよ」
「はい」
そして二人の間に沈黙が流れる。
「えっと…明日出発ですよね?荷物のパッキングは終わりましたか?」
「それがまだなんだ。仕事関係のものは、何度も確認して準備万端なんだけど、個人的な服とかは、さっぱり」
「ええ?大丈夫ですか?すぐに帰って荷物まとめてくださいね」
「うん、その前にどうしても会いたくて…」
小声で呟く大河に、え?と瞳子が首を傾げる。
「準備や片付けも含めて、パリには3週間滞在するんだ。しばらく会えなくなる」
今までだって、3週間瞳子に会わないのは普通だった。
それがどうして今は、こんなにも寂しい気持ちになるのだろうか。
「時々メッセージを送ってもいいかな?」
「はい、お待ちしてます。パリの写真も送ってください」
「分かった」
そして改めて二人で向き合った。
「それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。お気をつけて」
大河は口元を引き締めて頷くと、車に乗り込んで去っていった。
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