6161人が本棚に入れています
本棚に追加
「瞳子さん、今日のランチは外に食べに行きませんか?」
次の日。
珍しくランチタイムにオフィスにいた亜由美が、瞳子に声をかける。
「あら、いいじゃない。たまには二人でゆっくりしてらっしゃい」
千秋にそう言われ、瞳子は電話番をお願いして亜由美と事務所を出た。
少し歩いて、女の子に人気のトラットリアに入る。
「瞳子さん。タリアテッレとニョッキとリゾット、シェアしましょうよー」
「亜由美ちゃん、そんなにたくさん食べられるの?若いわねー」
「瞳子さんだって若いでしょ?それに最近はなんだか大人の女性の魅力も加わって、美しさに磨きがかかってる感じ。あー、見てるだけで目の保養になる」
うっとりと見つめてくる亜由美に苦笑いしながら、瞳子は久しぶりの外食を楽しむ。
すると男性二人がテーブルに近づいてきた。
「ねえ、相席してもいい?」
「はあ?ダメです」
カウンターパンチのように、亜由美が冷たく即答する。
「そんなこと言わないでさ。ね?いいでしょ?」
「良くありません」
「こんな美しい女性に声をかけない方が失礼だよ」
「いいえ、ニヤニヤしながら瞳子さんに言い寄るあなた達の方が失礼です。目ん玉ひん剥いて、よーく鏡で自分の顔を見てみなさいよ。瞳子さんの横に並ぶなんて、千年早いわ!」
「あ、亜由美ちゃん…」
いつものキャラからは想像がつかない程、バッサリと相手を切り捨てる亜由美に、瞳子はおののく。
「さっ、瞳子さん。ドルチェ頼みましょ!何がいいかなー」
メニューを広げて完全にシャットアウトすると、二人は渋々離れていった。
(知らなかった。亜由美ちゃんってこんなに男前なのね。かっこいい)
「んー、パンナコッタにしようかな?」
人差し指を頬に当てて、可愛らしく迷う素振りをする亜由美を、瞳子は尊敬の眼差しで見つめていた。
(私もあんなふうに、ズバッと相手に言えたらいいのに…。そうすれば、一人で気ままにカフェやレストランにも入れるかもしれない)
瞳子は誰かに絡まれるのが嫌で、いつも店内は利用せずテイクアウトにしていた。
大河と出かけたあの日と、亜由美と一緒の今日が、ここ最近の瞳子にとって数少ない外食の機会だった。
外で食べるのは良い気分転換になるが、楽しめるのは大河や亜由美が自分を守ってくれるからだ。
(情けないな。一人でも堂々とやりたいことが出来ればいいのに…)
だがやはり、一人では対応し切れない程の嫌な絡まれ方をするかもしれないと考えると、どうしても勇気が出ない。
瞳子はこっそりため息をついてから、今日ランチにつき合ってくれた亜由美に感謝した。
最初のコメントを投稿しよう!