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「大河さん!」
事務所があるビルのエントランスから、顔をほころばせた瞳子が、タタッと近づいて来た。
「お帰りなさい!」
「あ、ああ。ただいま」
大河は、弾けるような瞳子の笑顔に面食らう。
こんなにも感情を露わにして、嬉しそうに自分のもとに駆け寄って来てくれるなんて…。
(いったいどうしたんだ?いや、その前に、とにかく可愛すぎる)
大河は咳払いをして顔を引き締めると、まずは瞳子を車に乗せた。
瞳子のマンションへと向かう車中、早速あれこれと質問される。
「それで、どうでしたか?展覧会は」
「うん、観客の反応も良かったよ。やっぱり和のテイストは、外国の人に喜ばれるな。主催者も、大げさなくらい褒めてくれた」
「そうなんですね!良かったです。あー、私も早く見たいな」
「そうか、まだちゃんと見せてなかったね。ブラッシュアップしたら、東京でも展覧会を開催する予定なんだ。パリでの様子もドキュメンタリーとして編集して、合わせて公開する」
「わあー、楽しみ!」
瞳子は大河の顔を覗き込むように、無邪気に笑いかける。
大河はハンドルを握りながら、胸がバクバクするのを感じていた。
(な、なんでこんなに無防備に笑いかけてくれるんだ?いったい、俺をどうしようと…)
必死に平常心を保ち、前方を凝視しながらハンドルを握る。
なんとか瞳子のマンションまでたどり着くと、いつものように路肩に止めた。
「じゃあこれ、お土産ね。千秋さんや事務所の人と食べて。お菓子の詰め合わせと紅茶なんだ。君には他にも、えっと色々あるんだけど…」
ガサゴソと紙袋を探る。
「ポストカードやレターセットに文房具。キャンドルや、小物入れ。あとこれは、デザイン画の本」
「えー、こんなにたくさん?」
「ごめん。女の子ならもっと、コスメやアクセサリーとか、バッグとかがいいかなと思ったんだけど、俺にはどれがいいのかさっぱりで」
「ううん、こっちの方が嬉しいです!日本では見かけないような物ばかりで。どれもとっても素敵!」
「そう?良かった」
一つ一つじっくりと手に取りながら眺めていた瞳子は、ふいに顔を上げて大河に尋ねた。
「大河さん、お茶飲んで行きませんか?」
「はっ、お茶?どこで?」
「私の部屋です。お土産話も聞きたいし、写真も見せてもらいたくて。あ、ひょっとして時差ボケでお疲れですか?」
「いえ、そのようなことはございませんが…」
「それならどうぞ。あ、ゲストパーキングがあるので、車あちらに移動してください」
「はい、かしこまりました」
大河はギクシャクと車を運転して、来客用の区画に停めた。
運転席から降り、助手席のドアを開けて瞳子に手を差し伸べる。
「ありがとうございます」
瞳子が柔らかく綺麗な手を重ねた瞬間、大河は思わずビクッとしてしまう。
(ち、ちょっと待て。とにかく落ち着け)
自分に言い聞かせていると、こっちです、と瞳子が先を歩き始めた。
エレベーターで3階に上がる間、大河の心拍数も上がっていく。
「ここです。どうぞ」
玄関の鍵を開けた瞳子が、大河を振り返って促す。
「お、お邪魔します」
大河はガチガチになって中に足を踏み入れた。
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