6161人が本棚に入れています
本棚に追加
穏やかな笑みを浮かべて写真を眺めていた瞳子が、次の写真をめくってふと真顔になる。
どうしたのかと横から覗いてみると、大河達4人が並ぶオープニングセレモニーの写真だった。
「この写真がどうかした?」
「あ、はい。大河さんが、とってもかっこよくて」
………は?と、思わず間抜けな声を上げてしまう。
「ど、どういうこと?」
「だってこんなにビシッとタキシードを着こなして、スタイルもいいし。なんだか私の知らない大河さんみたい。もう気軽に話しかけたり出来ないような…」
「ま、まさか!何を言ってるの?」
軽く笑い飛ばそうとしたが、瞳子はじっと写真を見つめたままだ。
「私、大河さんがパリにいる間、ずっとメッセージを待ってたんです。今日は届くかな?あー、やっぱり来なかったってガッカリして。そしたらだんだん寂しくなってきたんです。もう会えないのかな?会いたいなって、気がつけば毎日そう考えていて…。だから今日、大河さんの姿を見た時、私、嬉しくて!」
そう言って瞳子は、まるで可憐な花が咲いたような笑みを浮かべて大河を振り返った。
その瞬間、何も考えられなくなった大河は、いつの間にか瞳子をギュッと抱きしめていた。
柔らかい身体を腕に感じ、ふわっと鼻をくすぐる良い香りに胸が切なく痛む。
だがハッと我に返り、慌てて手を離した。
「ごめん!俺、つい…」
後ずさって謝ろうとしたが、なぜだか身体が離れない。
え?と、不思議な感覚に戸惑っていると、背中に温もりを感じた。
瞳子が自分を抱きしめている、と分かったのは、数秒経った後だった。
(ど、どうして…)
にわかには信じ難い。
瞳子が自分の胸に頬を寄せ、背中に両腕を回して抱きついているなんて…
大河はされるがままになり、しばし呆然とする。
やがて瞳子は小さく、あったかい…と呟くと、そっと腕を解いてから、照れたように大河に微笑んだ。
驚きすぎて身体が動かない。
いや、動かなくて良かった。
でなければ、頭の中で何かがプツンと切れて、瞳子を押し倒してしまったかもしれないから。
ゴクリと唾を飲み込むと、大河はスマートフォンをポケットに入れて立ち上がった。
とにかく、一刻も早くここから出なければ。
心を無にすると、
「そろそろ帰る。おやすみ」
と言い残してそそくさと部屋を出る。
玄関のドアがパタンと閉まると、大河はその場にヘナヘナとしゃがみ込んだ。
(はあ、マジでやばかった)
瞳子の部屋に上がり、二人切りになるシチュエーションがそもそも想定外だったのだが、その上にまさかあんな事態になるとは。
リハビリとして自分と二人で過ごしてくれればと思っていたが、そんなに簡単な話ではないということを、大河はようやく身に染みて感じていた。
最初のコメントを投稿しよう!