リハビリの終わり

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「アリシアー!久しぶり!」 オフィスのドアを開けるなり、透は瞳子の両手を取って握りしめる。 「かれこれ1か月以上会ってなかったんじゃないか?そんなに離れてたなんて。寂しい思いをさせたね、アリシア」 「アホ!お前はいったいどういう立ち位置なんだよ!」 透と大河のやり取りに、瞳子は懐かしそうに、ふふっと笑う。 透が電話をしてから数日後。 瞳子は自分の仕事が休みの日に、アートプラネッツのオフィスを訪れていた。 「久しぶり、瞳子ちゃん。さ、とにかく入って」 「はい、失礼します」 洋平に促されて瞳子はソファに座る。 「皆さん、パリでの展覧会お疲れ様でした。大盛況だったようで、おめでとうございます」 「ありがとう!俺達も海外のアートを肌で感じて、とても良い刺激を受けたよ」 「そうでしょうね。パリの街も素敵だろうなあ」 「瞳子ちゃんも、いつか行ってみるといいよ」 俺と行くー?連れて行ってあげるよー! 「それに、瞳子ちゃんがアイデアをくれたんだって?和のテイストの映像、すごく喜ばれたよ」 「いえ、私は何も」 アリシアのおかげだよ。ほんとに君はいつも俺の最高のパートナーだね。 「それで今、日本での凱旋公演の準備を始めたんだ。そのMCは是非瞳子ちゃんにお願いしたい」 「私で良ければ、やらせて頂きたいです」 アリシアがいいに決まってるじゃないか。 「それからショップで販売するグッズも、またラインナップ考えてくれるかな?」 「わー、いいんですか?私、グッズを考えるの好きなんです」 俺も好きだよ。大好きさー! 瞳子は洋平と(…横から透と)話しながら、今後の大まかな予定を確認する。 「分かりました。MCについては直前の打合せだけで充分ですが、グッズの案については、やはりこちらのオフィスで皆さんと相談しながら進めたいです」 「もちろん、大歓迎だよ。仕事の調整は出来そう?」 「はい。千秋さんにも確認してみますが、大丈夫だと思います」 「分かった、ありがとう」 そしてようやく瞳子は、パリで上映した映像を見せてもらった。 美しい日本の情景はさることながら、場面ごとに現れる色鮮やかな曼荼羅の素晴らしさ。 スルスルとカラフルな線が中心から外側へと描いていく、幾何学的なシンメトリーのデザイン。 牡丹や菖蒲などの絵と共に、使われている色の名前が日本語とアルファベットで紹介されていた。 また、切り絵の世界にも存分に引き込まれていく。 1枚の紙を折りたたみ、そこにハサミを自由自在に走らせる。 開くと美しい蝶が生まれ、ヒラヒラと飛び立っていく。 その先には京都の寺と桜。 日本庭園や富士山。 どれもペーパーシャドーアートの雰囲気で、古き良き日本の風景を表していた。 やがてスーッと画面は日本から遠ざかり、大きく世界を捉え、美しい桜の花吹雪で包み込んだ。 最後にタイトルがゆっくりと浮かび上がる。 【Japanese Circle〜日本の和〜】 「わあ、とっても素敵でした!」 瞳子が目を輝かせて拍手する。 「次々に美しい映像が現れて、思わず引き込まれちゃいました。それに日本の雰囲気がたっぷり味わえて良かったです。曼荼羅や日本古来の色合い。切り絵のちょうちょが日本を案内してくれるのもいいですね!」 興奮気味の瞳子に、皆も嬉しくなる。 「タイトルの【日本の和】は、世界に広がる輪と、和風の和を掛けてるんだ。それから【Japanese Circle】も、円で描く曼荼羅の美しさと、円をご縁の縁と掛けてる」 「そうなんですね。素敵!意味を知るともっとこの作品が奥深く感じられます。世界に誇れる日本の素晴らしさですね」 「ありがとう。瞳子ちゃんに褒められるのが何より嬉しいよ」 洋平と瞳子の会話に吾郎も加わる。 「ああ、そうだな。瞳子ちゃん、グッズもこのイメージで考えてくれる?」 「はい!とっても楽しみです。何がいいかなあ」 瞳子は生き生きとした表情で、早速グッズのアイデアを考え始めた。
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