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「前にね、大河さんがギュッてしてくれて、すごく気持ち良かったの。安心するし、ホッとする。大好き…」
小さく呟く瞳子に、大河はもう平常心ではいられなくなる。
だがなんとか己を押さえつけ、瞳子の両肩に手を置いて身体を離した。
「そういうセリフは本当に好きな人に言え」
冷たく言い放つと、瞳子の顔から笑みが消えた。
その瞳が、みるみるうちに涙で潤んでいく。
「大河さんじゃ、ダメなの?」
「ダメだ。俺はリハビリとして、君が慣れるまでの相手だからな。もう大丈夫だろう。あとは本気で好きになった人と一緒に、ゆっくり時間をかけて癒やしてもらえばいい」
うつむいた瞳子の瞳から、ポタポタと涙がこぼれ落ちた。
「ちょ、どうした?」
慌てて瞳子の顔を覗き込む。
瞳子の目からは、とめどなく涙が溢れていた。
もしかして何か傷つくようなことを言ってしまったのかと、大河は不安になる。
「どうしたんだ?俺が何か気に障ることをしたのなら教えてくれ」
瞳子は黙って首を振る。
「それなら、どうして?」
「…大河さんとが良かったの」
瞳子の小さな呟きに、え?と大河は首を傾げる。
「俺とがいいって、どういう意味?」
「大河さんだから、一緒にいても楽しいの。部屋に二人切りでも、大河さんなら怖くない。身体が触れても、大河さんだから安心するの。他の人なら…やっぱり怖いの」
大河はハッと息を呑む。
気づいた時には、瞳子を胸にかき抱いていた。
「俺となら、一緒にいても平気?」
「…うん」
腕の中で瞳子が小さく頷く。
「俺となら、こうやって身体に触れていても怖くない?」
「うん」
「俺となら…」
大河は言葉を止めて一つ息を吸う。
「俺となら、この先の関係も想像出来る?」
瞳子はしばらく押し黙ってから、再び頷いた。
「うん。大河さんとなら、大丈夫。大河さんなら信じられるから。私を大切にしてくれるって。大河さんは、私とでは無理?」
おずおずと視線を上げて尋ねる瞳子に、大河は目頭が熱くなるのを感じた。
腕の中にいる瞳子の温もりに、愛おしさが込み上げてくる。
「無理な訳ないだろう。どれだけ俺を翻弄する気だ?こんなにも好きで好きで堪らないのに」
そう言うと、瞳子の頭をグッと抱き寄せる。
良かった…、と呟いて身体を預けてくれる瞳子に、大河はもうこれ以上気持ちを抑えることが出来なかった。
「瞳子…」
愛しい人の名を呼ぶと、瞳子は顔を上げて大河を見つめる。
ゆっくりと顔を寄せていくと、瞳子の潤んだ瞳が揺れた。
唇が触れそうな距離で、ためらうように大河が動きを止めると、瞳子は顔を上げたままゆっくりと目を閉じた。
大河はぎこちなく唇を寄せると、そっと瞳子にキスをする。
かすめるような、ほんの一瞬触れただけの小さなキス。
瞳子は目を開けると、上目遣いに、そしてちょっと不満そうに大河を見つめる。
照れたような、拗ねたような、その表情がたまらなく愛しくなり、大河はまた唇を寄せ、今度はゆっくりと優しく口づけた。
胸の奥がジンと痺れ、切なさにキュッと痛む。
ファーストキスの時でさえ、こんな気持ちにはならなかったのに。
大河は名残惜しむように唇を離すと、もう一度瞳子を胸に抱きしめ、優しく頭をなでた。
「瞳子…。君を必ず大切にする。約束するから、君のそばで守らせて欲しい。そして少しずつ時間を重ねていこう。二人で、恋人としての時間を」
「大河さん…。ありがとう、私を救ってくれて。本当にありがとうございます。大河さんとなら、この先の未来も築いていける気がします。恋人としての未来を」
「瞳子…」
大河は優しく瞳子に微笑むと、もう一度愛を込めてキスをした。
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