そばにいる証

3/3
前へ
/195ページ
次へ
「瞳子。たとえ離れていても、俺はいつだって君のそばにいる。その証に、これを君に贈るよ」 そう言うと、小さなリングケースを開けて見せた。 「これ…」 輝くダイヤモンドの指輪に、瞳子は思わず息を呑む。 「返事はまだしなくていい。だけど、俺がプロポーズするのは生涯ただ一人。瞳子にだけだ」 瞳子の瞳から、再び涙がこぼれ落ちた。 「今はただ、何も言わずにこの指輪を受け取ってくれる?」 すると瞳子は顔を上げて首を横に振る。 「瞳子…?」 大河が戸惑うと、瞳子は指で涙を拭ってから、真っ直ぐに大河を見つめた。 「何も言わずに受け取ることは出来ません」 「…え?それって、どういう?」 「きちんとお返事してから受け取らせてください」 「瞳子…」 大河は驚いたように呟いてから、ふっと頬を緩めた。 「分かった。俺もきちんと言葉にして、この指輪を贈りたい」 そして改めて瞳子に向き直る。 「瞳子。俺は君の綺麗な心が大好きだ。真っ直ぐに俺を見つめてくれる、健気で優しい瞳が大好きだ。今まで一人で懸命に生きてきた君を、これからは必ず俺が守る。もう二度と君を傷つかせたりしない。どんな時もそばにいる。だから安心して、俺のそばにいて欲しい。この先も、ずっと」 自分を射抜くような力強い大河の眼差しに、瞳子は胸を打ち震わせた。 込み上げる涙を堪えると、しっかりと自分の気持ちを言葉にする。 「大河さん。私もあなたの優しい心が大好きです。いつも私を守って抱きしめてくれる、あなたの温かい腕が大好きです。たくさん傷ついて、もう誰も信じられない、これ以上苦しみたくないと嘆いていた私を救ってくれて、ありがとうございました。あなたに癒やされて、私は希望を持てるようになりました。あなたなら信じられる、あなたとなら幸せになれると。大河さん、私をあなたのそばにいさせてください。この先も、ずっと」 大河は頷き、瞳子の両手を優しく握った。 「一生君をそばで守る。結婚しよう、瞳子」 「はい、大河さん」 涙で潤んだ綺麗な瞳で、しっかりと瞳子が答える。 そんな瞳子が堪らなく愛しくなり、大河は胸に抱き寄せた。 「ありがとう、瞳子。これからも君の心を大切にするから。俺を信じて欲しい」 「うん。ありがとう、大河さん」 やがて大河は瞳子の左手を優しく掬い上げ、薬指にゆっくりと指輪をはめた。 「離れていても、この指輪が俺の代わりに君を守ってくれますように」 そう呟くと、指輪にそっと口づける。 瞳子は嬉しそうに指輪に触れて微笑むと、甘えるように大河に抱きついた。 「大河さん、大好き」 頬に涙の跡を残したまま、にっこり笑いかけてくる瞳子に、大河は思わずドキッとする。 「参ったな、イタリアに連れて行きたくて堪らなくなる」 「ふふふ、私もついて行きたくて堪らないです。でも、ちゃんとお留守番してますね。この指輪と一緒に」 「ああ」 笑顔で微笑み合うと、どちらからともなく顔を寄せてキスをする。 言葉に出来ない3週間分の想いを込めて… 二人はいつまでも互いを抱きしめ合い、口づけを交わしていた。
/195ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6162人が本棚に入れています
本棚に追加