あなたになら

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その時だった。 コンコンとノックの音がして、大河は顔を上げる。 (どこのドアだ?え、まさか瞳子…?) そう思いつつ、はいと返事をすると、ゆっくりとベッドの横のドアが開いた。 「大河さん、まだ起きてましたか?」 そっと顔を覗かせた瞳子に、大河は身体中が一気にカッと熱くなるのを感じた。 つい今しがた想像し、慌てて己の頭の中から振り払った風呂上がりの瞳子の姿。 洗いたての髪とほんのりピンクに染まった頬。 バスローブから覗く、スラリと長く白い素足。 「もう寝るところでしたか?」 再び声をかけられて、大河はハッとする。 「寝る?!いや、寝ない。起きてる」 すると自身の中心がピクリと反応した。 (いや、お前は起きるな!) 悟られないよう、ゆったりと自分のバスローブの前を整える。 「大河さん、あの。ちょっとお話してもいいですか?」 「えっ?!あ、はい。どうぞ」 てっきりその場で話し出すのかと思いきや、瞳子はドアを閉めると、真っ直ぐに大河の座るソファにやって来た。 (ヒーーーッ!いかん、これはいかん!ちょっとでもダメだぞ。All or Nothingだ!) 己に強く言い聞かせ、瞳子から目を逸らす。 瞳子がソファの隣に座ると、ヒッ!と縮み上がり、ジワジワと端ににじり寄った。 「大河さん、あのね」 「う、うん。なんだ?」 「私、大河さんがイタリアに行ってる間、すごく寂しくて、会いたくて堪らなかったの」 (そ、そんな可愛いこと言ってくれるな!息子の為にも、頼むから今だけは!) 大河は必死に心の中で念じる。 「だから今日、大河さんとこうして旅行に来られて、楽しくて幸せで。この時間がずっと続けばいいのになって思ってた。少しでも長く、大河さんと一緒にいたいの」 そう言うと、瞳子は上目遣いに、ダメ?と首を傾げて聞いてきた。 (ダメだ、もうダメだー!) 叫びたくなる衝動を懸命に堪える。 「大河さん、お疲れだからゆっくり休みたいのよね?私、邪魔にならないように気をつける。だからここで一緒に寝てもいい?何もしないから。ただ大河さんのそばにいたいの」 (何もしないで一緒に寝る?!そんな…、もはや、拷問…) 大河は絶望にガックリと肩を落とす。 「やっぱり…ダメ?」 寂しそうな瞳子の呟きに、我に返った大河は急いで首を振る。 「違う、ダメじゃないよ」 「ほんと?じゃあ、隣で寝てもいい?人差し指を繋いで寝るだけでいいから」 (人差し指ー?!なんだ?その絶妙なチラリズムは。たとえ人差し指1本でも、俺の息子は立ち上がれるんだぞ。 ほんの少しでもダメ!All or Nothingだ!) 「あの、大河さん?どうかしたの?」 顔面一人芝居を繰り広げる大河に、瞳子が不思議そうに声をかける。 大河は意を決すると、咳払いをしてから顔を上げた。 「瞳子。大事な話をしたい」 「はい」 「だがその前に、ちょっと場所を移動させてくれ」 そう言うと大河は席を立ち、テーブルを挟んだ反対側に座り直した。
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