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「瞳子」
「はい」
改めて向き合うと、瞳子は真剣に大河を見つめる。
「瞳子はこれまで、散々嫌な思いをさせられてきた。俺は同じ男として、瞳子が酷い目に遭ったことが申し訳なくて、胸が痛む。もう二度と瞳子にそんな思いをさせたくない。だから、瞳子が異性に対しての恐怖心がなくなるまで、ずっと待つつもりだ。どれだけかかってもいい。君の心を大切にしたいんだ」
大河さん…と、瞳子は言葉に詰まる。
「だけどその為には、俺は君から遠ざかる必要がある。軽蔑されたくないから黙ってたけど、瞳子は、その…、俺にとって魅力的すぎるんだ。少しでもそばにいたいと言ってくれる君の気持ちは嬉しいし、俺も同じ思いだ。一つだけ違うのは…」
そこまで言ってうつむいてから、大河は思い切ったように顔を上げた。
「君は、何もせずただ一緒に寝たいと思っていても、俺にとってそれは無理なんだ」
瞳子は、ぱちぱちと瞬きを繰り返し、頭の中で大河の言葉をじっと考えた。
「だから、ごめん。別の部屋で寝て欲しい。君を傷つけたくないから」
大河はそう言うと立ち上がり、ベッドの横まで行ってドアを開けた。
瞳子もゆっくり立ち上がると、思い詰めたようにドアへと向かう。
その表情に、大河は居たたまれなくなった。
「瞳子、ごめん」
通り過ぎる瞳子に思わず謝った次の瞬間、瞳子が涙で潤んだ瞳で大河を見上げ、両腕を伸ばして抱きついてきた。
「瞳子…?!」
驚いて後ずさるが、瞳子は手を緩めない。
「瞳子、離して」
「いや!」
「離すんだ」
「いやなの!」
「瞳子…」
瞳子は大河の胸に顔をうずめて首を振る。
悲痛な叫びに、大河は言葉を失った。
「大河さん、私の心を大切にするって言ってくれたでしょう?」
「ああ、そうだ。君を傷つけたくないから」
「だったら!今の私の心も大切にして」
「今の、君の心…?」
「私、今、大河さんに抱いて欲しいの」
「なっ……?!」
大河は目を見開いて呆然とする。
「大河さんのことが大好きだから、心も身体も触れ合っていたいの。私の今のこの気持ちを、受け止めて欲しい。そう願ってはいけないの?」
涙をポロポロこぼしながら懸命に訴えてくる瞳子に、大河の中にわずかに残っていた理性がプツンと切れた。
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