イベント

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拍手が収まり雰囲気が落ち着いたのを見計らって、瞳子はイベントを進行していく。 まずは新作モデルのお披露目から。 ステージ中央にある四角い台に掛けられた白い布を谷崎が取り払うと、新作モデルの時計が現れる。 と同時にうしろのパネルに『SAKURA』の文字と、綺麗な桜の模様が浮かび上がった。 しばらくマスコミが写真を撮る間、瞳子は新作モデル『SAKURA』の説明をする。 ピンクと薄紫のグラデーションの文字盤は大人の女性でも持ちやすい洗練されたデザインで、秒針の先は桜の花びらの形になっており、動く度にひらひらと舞うような美しさが楽しめる。 文字盤の頂点にはダイヤモンドが輝き、幅広い年代の女性に長く愛用されるようなモデルだ。 ひとしきり皆が写真を撮り終えると、瞳子は少し距離を置いた立ち位置のまま谷崎とのトークに入った。 年齢は瞳子とひとつしか違わない25歳の谷崎だが、こうして向き合ってみると芸能人の持つオーラと美しさに圧倒されそうになる。 「谷崎さんにとって、時計とはどんな存在ですか?最近はスマートフォンを時計代わりにする人も増えてきましたが、谷崎さんは普段腕時計を着けられるのでしょうか?」 「はい、毎日着けています。もちろんいつでもすぐに時間を確認する為ではあるのですが、着けていると気持ちが引き締まるので。仕事に行く時も、時計をはめるとスイッチが入る感じです」 「なるほど。時計を着けていることによって、気分が変わるということですね?」 「ええ。以前大きな仕事をやり終えた時に、自分へのご褒美としてちょっと高価な時計を買いました。今でもその時計を着けていると自信が湧いてきますし、気持ちが引き締まります。逆にオフの時はカジュアルな腕時計を着けてリラックスしたりもしますね」 「素敵ですね。谷崎さんにとって時計はアクセサリーでもあるのですね」 「はい、そうです。この『SAKURA』モデルも、着けているだけで気分が華やぎますし、ダイヤモンドの輝きを見ていると大人の女性になれた気がしてちょっと背伸びしたくなります」 「今、実際に谷崎さんに『SAKURA』モデルを着けて頂いていますが、本当に良くお似合いです。これを着ければ憧れの谷崎さんに少しでも近づけるかな、なんて気持ちになりますね」 そう言うと、客席の女の子達も頷いている。 谷崎は微笑みながらそんな女の子達に目を向けた。 「私は自分で時計を買いますが、皆さんは彼からプレゼントされるのでしょうか?素敵ですね。大好きな人から贈られた時計ならずっと着けていたくなるでしょうね」 「そうですね。それに二人で過ごす時間の象徴として、その時計を長く大切にしたくなるのではないでしょうか。この『SAKURA』モデルは文字盤の裏に刻印をすることも出来ます。お二人のイニシャルや短いメッセージも入れられますよ。先程もお伝えしましたが、本日イベントを見たとひと言添えてお買い求め頂くと、刻印が無料になるサービスもご用意しております」 「わあ、素敵!私は仕事柄、彼から指輪をもらったとしても着けられないのですが、腕時計ならさり気なく着けられますね」 谷崎の言葉に瞳子は、ひゃっ?!と一瞬目を見開く。 (そ、それって言っても良かったのかな?) 心配になって谷崎を見ると、案の定、しまった…というようにわずかに眉間にしわを寄せた。 「時計をプレゼントしてくれる男性って素敵ですよね。春は節目の季節でもあります。これから迎える新生活、彼女への応援の気持ちも込めて『SAKURA』モデルをプレゼントしてみてはいかがでしょうか?美しい桜の時計と彼の優しさは、きっと受け取った女性を幸せにしてくれると思います」 瞳子は客席を見渡しながら一気に話すと、谷崎に『トークは終わり』と目配せして頷く。 谷崎も頷いて、決められていた立ち位置に移動した。
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