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「あの時は本当にごめんなさい。悪いのは私です。勝手なことを言って本当にすみませんでした」
それだけを言って頭を下げていると、しばらくして、ふっと友也が寂しそうに笑みを漏らした。
「やっぱり教えてもらえないか…」
ゆっくりと視線を上げると、友也は静かに笑っていた。
「あんたなんか大ッキライ!この女々しいウジウジ男!」
「…え?!」
「って言って、思い切り引っぱたいてくれない?そうすればスッキリ別れられる気がする」
「そ、そんな!先輩を引っぱたくなんて出来ません」
「じゃあ、もう一度つき合ってくれない?」
「え…」
瞳子は驚いて息を呑む。
何がどうなっているのか、友也は何を言っているのか、頭が追いつかない。
「君を忘れようとしても無理だった。諦めたつもりだったけど、今こうして目の前にすると抱きしめたくなる。そんな俺をボコボコに振ってくれるか、それとももう一度つき合ってくれるか、そのどちらかを選んでもらえないかな?」
「そ、そんな…。先輩には、今おつき合いしてる人がいるんじゃ?」
「いないよ。恋人は君が最後だ」
「え…、そんなはずは」
華やかな世界でもてはやされる人が、ずっとフリーだったと?
週刊誌の記事も嘘だということ?
混乱しつつ、瞳子はただ呆然とする。
やがて友也がゆっくりと口を開いた。
「ごめん。いきなりこんなこと言われても困るだけだよね。君だってあれから3年の間に色んなことがあっただろうし」
そう言ってしばらく思案してから、友也は再び顔を上げた。
「瞳子ちゃん、今は君の連絡先を聞かない。だけど、もしもう一度どこかで偶然再会出来たら、その時はさっきの返事を聞かせてくれる?」
「さっきの、返事?」
「ああ。俺ともう一度つき合ってくれないか?って言葉の返事を」
そして穏やかな笑みを浮かべると、おもむろに立ち上がる。
「じゃあね、瞳子ちゃん」
「…あ、先輩!ジャケット」
「預かってて。また逢う日まで」
片手を挙げて振り向かずに去っていく後ろ姿を、瞳子は言葉もなく見つめていた。
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