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「おっはよーっす!って、おい大河!またオフィスで寝落ちかよ。ほら、起きろ!」
翌朝。
オフィスに出社した透は、デスクに突っ伏している大河に声をかける。
「大河ってば!風邪引くぞ。ん?なんだ、ちゃんと毛布掛けてんのか」
大河の肩には、いつもソファに置いてあるブランケットが掛けられていた。
だが透はその姿に違和感を覚える。
「ちょっと待て。なんか構図が不自然だぞ?」
大河から少し離れ、両手の人差し指と親指でフレームを作って大河を眺めた。
「あ!その毛布、自分で掛けたんじゃないな?誰かが後ろからそっと大河に掛けたんだろ。おい、大河!いったい誰といたんだよ?」
「んー、うるさいな、もう」
肩を揺するとようやく目を開ける。
「透、朝から騒ぐな」
「これが騒がずにいられるか!大河、お前まさか女を連れ込んだのか?」
「はあ?なんだよ、女って」
「こっちが聞いてんだよ!夕べ誰と一緒にいたんだ?」
「誰って、それは…。えっ!」
大河はガバッと身体を起こす。
オフィスを見渡すが、瞳子の姿はない。
(まさか、一人で出て行ったのか?)
呆然としていると、デスクの隅に小さなメモが置かれているのに気づいた。
薄いピンクの縁取りのメモには、
『ありがとうございました』
とひと言、綺麗な文字で綴られている。
(いったいどこへ?無事なんだろうか)
そして大河はハッと思い出してテレビのスイッチを入れた。
朝の情報番組が流れ、ちょうど倉木 友也の週刊誌の記事に関して、コメンテーターが語っているところだった。
「いやー、この写真を見る限り、なかなか親密な雰囲気ですよね。どうやら倉木さんは、自分のジャケットを彼女に着せてあげてるようですし。パーティー会場を二人で抜け出してっていうのも、なんだかロマンチックです。しかもお相手の女性は、パーティーの司会者だそうで、ある意味同業者ですよね。これはもう決まりじゃないですか?」
何を勝手な…と大河が唇を噛み締めると、隣で透が、ええ?!と声を上げた。
「こ、これ、瞳子ちゃんじゃないか?顔にぼかし入ってるけど、そうだよな?後ろにうちのミュージアムが写ってるし」
「ああ、そうだ。だが、記事はデタラメだ。彼女は倉木アナとはつき合ってない」
「え?なんで大河がそんなこと知ってるんだよ?」
「夕べ偶然、この週刊誌の記者に捕まってる彼女を見かけて保護した。透、こうやって話題になった以上、うちの事務所やミュージアムにも問い合わせがくると思う。対応を頼む」
「分かった。それはいいけど、瞳子ちゃんは?無事なのか?」
「分からない。どうやらこっそりここを出て行ったらしい」
「そんな…」
二人は言葉もなく、まだあれやこれやとコメントしているテレビ画面を見つめていた。
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